お金の管理を人に丸投げしちゃダメ、絶対【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・お金と漫画 / 井上 純一

シリーズ累計80万部の大ヒットマンガ『中国嫁日記』の作者・井上純一さんが、お金に関する漫画『キミのお金はどこに消えるのか』(キミ金)を出版します。『中国嫁日記』は自身のブログに掲載した後、それを書籍化。ブログの広告収入と印税、どちらも入るというスキームを確立しているのです。従来の漫画家とは少し違った稼ぎ方をしている井上さんが過去に経験した、お金にまつわる成功と失敗とは。

2冊の同人誌を出すだけで、年間1400万の利益

——井上さんが「お金」について考えた最初の体験はなんですか?

同人誌で大儲けしたことですね。最初は、アニメ評論の同人誌を書いていました。続けているうちに、「同人誌ってなんだろう」って考えるようになったんです。同人誌って、書いても書いてもなにも残らないんですよ。マニアの間で伝説的に語られる1冊、みたいなものはあるけれど、基本的には数年すると忘れ去られていく。じゃあ、今やっていることに意味はあるのか。意味があるとしたらどこにあるのか。そう考えて、「よし、同人誌でできるだけ金儲けをしてみよう」と思いました(笑)。

——お金を生み出す、というころに意味を見出そうと。でも、評論系の同人誌でお金を儲けるのは難しいのでは……。

同人誌で儲けるためにエロしかないと。しかし、同人でお金を儲けるというのは、実は真面目に本を作るってことなんです。オタクは価値のないものは買わないし、その判断は的確です。つまりクオリティを上げないと売れない。私がやったのは量の特化です。普通は30ページぐらいですが、倍の60ページの本を必ず出すようにしたんです。それを2倍の値段で売る。これが当たった。2000年代半ばが、僕の同人人生のピークでした。

——当時は、どのくらいの利益が出ていたんですか?

コミケ(※)で1200冊くらい、同人系の書店委託で4000冊から最大で1万冊以上売れました。それが夏と冬の2回あるので、 同人誌だけで収入は年1000万を超えていました。

※コミックマーケットの略。世界最大の同人誌即売会で、毎年8月と12月の2回開催される
——年収1000万超えですね!

でも、そこで悩んでしまって。そんなにお金があっても、使い道ないんですよ。お金儲けに特化したらどうなるかの実験みたいなものだったんで。それで、いっそ儲かったお金をドブに捨ててやろうと思ったんです。そこで、フィギュア製作を始めました。

——フィギュア製作はお金がかかるんですか?

僕らが作ろうとしたのは、ポリ塩化ビニル製の「PVCフィギュア」と言われるもの。これは金属の型を作り、そこにPVCを流し込んで量産するんです。この金型が、えらくお金がかかる。1つ何百万もします。PVCフィギュア製作は基本的に、薄利多売の商売です。1つの金型からたくさん作って、それをたくさん売らないと儲けが出ません。
僕は途中からフィギュア製作にはあまり乗り気でなくなり、手を引いていました。でも、一緒に会社を立ち上げた友人はどんどんフィギュア製作にハマり、大変なことになっていきました。

やっと印税を家族のために使えるように

——『中国嫁日記』の5巻に、その顛末を書かれていましたね。井上さんの印税や原稿料は、その友人と共同経営している会社に振り込まれるようにしていたけれど、そのお金がほとんどフィギュア製作に使われてしまっていたと。

給料が振り込まれなくなって、初めて気づきました。彼は会社の税金もちゃんと支払っていなかった。そして極めつけに、6000万円の仕掛品があるということがわかりました。仕掛品というのは、フィギュアを製品する途中段階の製品のこと。金型も仕掛品です。これは商品として完成しないと、経費にならない。なんと、税務上は6000万円の資産があるという計算になってしまうのです。だから、ものすごい額の税金の取り立てがくる。

——実際はただのガラクタなのに……。

なんとかそこから商品化までもっていったものもありましたけどね。それでも全然儲けにはなりません。
結局、未払いの税金の元金を完済したのが、2年ほど前のことです。そして最近まで利子分を返していました。合計で2000万円くらいでしょうか。3月に出た『中国嫁日記』の最新刊で、やっと印税をすべて自分の家族のために使うことができるようになりました。8年も連載していて、初めてのことですよ。

——奥様は安心されたでしょうね。

会社のお金が何にどれだけ使われているのか、チェックしていなかった僕も悪いんですよ。自分のお金の管理を人に任せきりにしてはいけない、という教訓になりました。この騒動が起こったときに、妻の月(ゆえ)がまったく自分を責めなかったことがせめてもの救いです。月は、「これから先、どんなことがあってもこれ以上ひどくはならないよ」と言ってくれました。そのあと、「なぜなら、もう金型にお金を払わなくていいから!」と付け加えていましたけど(笑)。

——とにかく、金型が諸悪の根源だったんですね(笑)。

そうですよ。フィギュア製作は何百万もの初期投資をして、それを何年かかけて取り戻すという商売。おそろしい博打です。
そもそも、フィギュア自体があまり売れなくなったんですよね。最大の原因は消費税増税です。2014年に5%から8%になった瞬間、売上がめちゃくちゃ落ちたんですよ。僕らだけでなく、フィギュア業界全体で。びっくりしましたね。

——消費者が、「フィギュアにこれくらい出してもいい」と思っていた金額が、増税で少しオーバーしてしまった、と。

そうだと思います。たった3%なのに。あとは円安になったことも、フィギュア製作にお金がかかるようになった一因です。中国の工場に発注してフィギュアを作っていたので、円安だと出ていくお金が増えるんです。
そのことを話していたら、月が「円安になって減った分のお金はどこにいったの?」と質問してきた。それが、今回の『キミのお金はどこに消えるのか』(キミ金)を描くきっかけになりました。

——『キミのお金はどこに消えるのか』は、『文芸カドカワ』とnoteで連載をしていますね。『中国嫁日記』はご自身のブログに掲載してから、単行本として出版している。井上さんの収入源としては、今どれが大きいのでしょうか。

単行本の印税です。だから僕がもっと儲けようと思うなら、とにかく『中国嫁日記』のブログを毎日更新して、年に2冊くらい単行本を出すというのが一番手っ取り早いと思います。
『文芸カドカワ』の原稿料やnoteの購読料、『中国嫁日記』のブログ広告収入もまあまあ大きいですが、印税にはかないません。あと、ブログの広告収入はGoogle AdSenseがクリック単価を下げると大打撃を受けるので、あんまりそこに頼るのはお勧めしないです。あくまで補助的な収入という位置づけですね。

企業に投資すると、最終的に自分も豊かになる

——『キミ金』を描いていて、中国人の月さんとお金に対する価値観の違いを感じることはありますか?

月は、「少子化だから経済も縮小していくのが当たり前」、という今の日本人みたいな感覚は持っていませんね。なぜなら、中国も今人口が少しずつ減っているけれど、経済は右肩上がりだからです。そして、じつは「人口が減っても経済成長はできる」のほうが正解なんですよね。
あと、月もそうですけど、中国の人は基本的に政府を信じていません。文化大革命の時代を生き抜いたお年寄りや、一人っ子政策のもとに生まれてその影響を受けている80後(バーリンホウ)と呼ばれる80年代に生まれた世代は、政府の変わり身の早さを知っているから。元(げん)も信用していないし、中国政府はいずれ倒れる、と思っています。結局信じられるのはお金だけ、という価値観の人が多いですね。

——そういう考え方の人は、あまり日本にいない気がします。

日本政府がいずれ倒れる、なんて思ってもいないですよね。むしろ日本は「お上(かみ)に任せておけば大丈夫」という人が多い。だから僕が『キミ金』で政府の金融政策はおかしいと書いたら、「財務省の人がちゃんと考えて決めたことなのに、どうしてこんなこと書くんですか」と言われたりする。これ、うちのアシスタントから言われた言葉なんですけど(笑)。

——官僚が考えたことは必ず正しいと信じている。

お上が間違っていることは、たくさんあると思うんですけどね。第二次世界大戦のときだって、軍の上層部はみんな勝つと思っていたわけだから。

——井上さんご自身の資産管理は、今どうされているんですか?

今は資産も何も、負債を返したばかりで貯金すらない状態です(笑)。でも、お金が貯まってきたら投資もやりたいですね。やるなら株式投資かな。自分が応援する企業の株を買うと、損をすることもあるかもしれないけど、全体的には社会を豊かにすることに貢献できる。貯め込むのではなく、自分のお金を活かす方法を考えたほうがいいと思っています。

——社会を良くするために、投資をしたい。

豊かさって蓄えられないんですよ。札束をいくら持っていても、それ自体は役に立たない。お金は使われること、つまり交換することで社会の豊かさを生むんです。まあ、今はデフレなので、タンス預金したほうがじつは有利なんですけどね。デフレ下では物の価値が下がって、お金の価値が上がるから。でもみんながそうすると、社会全体がどんどん貧乏になっていく。
こういうことって、子どもの頃から知っておくべきだと思うんですよ。小さい子に投資をわかりやすく教える、「投資のひみつ」みたいな学研まんががあったらいいのに。あ、自分で描けばいいのか(笑)。