平成を締めくくるのにふさわしいのは「ハゲタカ」だ〜小説家・真山仁さんインタビュー【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・「ハゲタカ」で振り返る平成とこれから / 真山 仁

「ハゲタカ」シリーズは、企業買収者・鷲津政彦を主人公とした、壮大な経済小説です。2007年にはNHKでドラマ化され好評をおさめ、2009年には映画版が製作されました。そして、2018年夏にテレビ朝日系列で再ドラマ化。8月に発売された5作目の『シンドローム』も含め、「ハゲタカ」シリーズでは一貫して平成の経済状況をリアルに描いてきました。この平成最後の年に、改めて映像化した意義とは。原作者の真山仁さんにうかがいました。

平成はずっと経済が混乱していた時代だった

——ハゲタカシリーズの第1作が出版されたのが2004年。それから14年の時を経て、平成最後の年に再ドラマ化されました。ドラマ化についてのコメントでは、「映像化されるのは、平成時代を締めくくるための必然だ」と書かれていましたね。真山さんは、何をもって「必然だ」と感じられたのでしょうか。

昨年末に、テレビ朝日からドラマ化のオファーがあったのですが、企画書に「平成は経済が荒れ狂った30年間だった」と書いてありました。よく考えたら、日経平均が史上最高値をつけたのが1989年で、その年が平成元年でもある。その後、バブルがはじけ、平成はずっと経済がおかしかった時代でした。それを締めくくるには、「ハゲタカ」しかないという提案を読んだときに、「その通りだな」と思ったのです。

――たしかに『ハゲタカ』の冒頭はちょうど1989年の年末から描かれています。ドラマは、ハゲタカシリーズを1作目からなぞる構成になっているんですよね。いま一度、「ハゲタカ」を観ることで、平成の経済状況を振り返ることができる、と。ドラマ向けに新しく原案を書き起こしたともおうかがいしました。

今回のドラマの1話から6話までは、『ハゲタカ』『ハゲカタ2』をベースにしています。でもそうすると、2004年くらいまでしか網羅できない。30年間を振り返るためには、2018年の鷲津政彦(ハゲタカシリーズ・主人公)が何をしているかを描きたい、とプロデューサーに依頼されました。私も「平成を締めくくる」という提案にのった手前、書かざるを得なくなりまして(笑)。

ちょうどそのとき、ハゲタカシリーズの6作目と7作目をどうしようかと考えていました。最新作の『シンドローム』(ハゲタカシリーズ5作目)では2011年の東日本大震災のことを扱っていたので、6作目は2013年から2014年、7作目は現在の2018年くらいかな、と。そこで、7作目のために準備しようとしていたところを、ドラマに反映してもらっています。

——私は1990年代のバブル崩壊後の金融業界の動きなどをよく知らず、『ハゲタカ』を読んではじめて当時の出来事や雰囲気を知ることができました。読みながらインターネットで検索して、「この出来事は本当にあったんだ」「ここはフィクションなんだ」ということを確認していったら、すごく勉強になりました。

若い方がそんなふうに読んでくださるのはうれしいです。小説ですから、すべてフィクションであり、登場人物にモデルはいません。
ただ、『ハゲタカ』を書き始めたときに、編集者に「社名はなんとなくモデルの会社がわかるようにつけてくれ。それは、経済小説のルールだから」と言われたのです。

「ハゲタカ」は現代の歌舞伎である

——そうなんですね! 経済小説を読んだのは『ハゲタカ』が初めてだったので、知りませんでした。

最初は、実在の企業や銀行に似せて名前をつけるなんて嫌だなと思っていたのです。でも、小説家としてデビュー作を出すことに意味があるし、ルールなら仕方ない。だったら、それを逆手に取ってやろうと思いました。実在の企業に対して持つイメージを植え付けておいて、予想をくつがえす展開にしたのです。

先入観を利用する、というのは人物造形でも有効です。『ハゲタカ』で三葉銀行の常務取締役として出てくる飯島亮介も、最初はただの品がなくていい加減な関西弁のオヤジですよね。

——はい、そう思っていました。こんな人が上司だったら嫌だなあ、って。

でも後々、とんでもない実力者であることがわかる。あれは、初登場の場面の仕草や口調、他の人物とのやりとりで、最初は大したことのないやつだと思わせているのです。だからこそ、後の展開がきいてくる。

——飯島は影の大ボス、という感じですよね。シリーズを通して、主人公の鷲津の味方なのか敵なのか、わからないのがこわいです。

「ハゲタカ」は最初から、「悪い人しか出ない小説にしよう」と思って書いています。言ってみれば、現代の歌舞伎のように書こうとしているのです。

歌舞伎では、面白い演目はだいたいとんでもなく悪いやつが活躍します。金のためなら親でも売るような外道が出てきて、それをやっつけに行くのも実は悪い奴で……というような話が、たくさんあります。

なぜ歌舞伎のようにしたかというと、企業の放漫経営とその破滅などをルポルタージュ風に書くと、読む側がつらくなってしまうからです。

——たしかに、読んでいて何度か「こんなひどい経営者がいるのか……」と絶望的な気持ちになりました。

それをエンタメとして読んでもらうために、登場人物を若干誇張して描いています。鷲津も飯島も、現実にいそうでいないくらいの、極端なキャラクターにして、メリハリを付けています。

再ドラマ化で鷲津を演じた綾野剛さんの演技を「過剰だ」と言っている人もいたのですが、原作者としてはそうは感じていません。

リアリティは、小説家の想像から生まれる

——キャラクターの造形にはそういう意図があったんですね。たしかにお話はリアリティがあるのですが、鷲津って、元はニューヨークで活躍したジャズピアニストで、なおかつ伝説の「ハゲタカ投資家」だなんて、少しカッコよすぎるのでは? と思っていました(笑)。

あえてそういう設定にしたので、狙い通りです(笑)。しかも”カノジョ”は、アメリカの投資銀行のバイスプレジデントで、金髪ショートカットの長身美女ですからね。男からしたら、一生で叶えたい夢を全部叶えている。そんなカノジョであるリンも、けっこう現実離れした人物です。

『ハゲタカ』が出た当時は、外資系金融の若手社員から「リン・ハットフォードって誰がモデルなんですか?」とよく聞かれました。

むしろモデルになるような人がいたら私が会いたいと思って、「ああいう人、周りにいる?」と聞き返したら、「すごく探したんですが、いないんですよね」と返ってくる。そりゃそうですよ(笑)。

——登場人物のキャラクターが誇張して描かれているから、深刻な内容でも楽しんで読めるんですね。

でも、どこからフィクションかは、わからないように書いています。実際に起きたこととフィクションを交差させて書いている。だから、真実味があって惹き込まれるのでしょうね。

以前、抗議の電話が出版社に来たことがあります。融資の審査が甘いという設定で架空の地銀の話を書いたときに、実在する地銀の新頭取から「あれはうちのことだろう! なぜ役員会でもめている内容が、『ハゲタカ』に全部書いてあるんだ!」と言われたそうです。

担当編集者が私に「その地銀の方に取材しましたか?」と聞いてきましたが、そこには取材していなかった。新頭取がリアルだと感じた描写の部分は、私が想像して書いた箇所だったんですよね。

——ええ! そんなことがあるんですか!

何度もありますよ。今はなき産業再生機構の関係者とお会いしたときは、ある案件の裏側について、「なんであんなに詳しく知っているんだ」と延々聞かれました。情報がどこかから漏れたと思われたようです。でも、小説で登場する企業の買収劇は自分の想像で書きました。小説家の想像力をなめてはいけません(笑)。

——そうしたリアリティのある描写をするためには、逆説的ですが、やはり取材を重ねることが必要なんですか?

『ハゲタカ』を書いたときは、まだ人脈を持っていなかったので、ツテをたどって100人くらいに取材しました。今なら、もっと早くキーマンにたどり着けるので、その3分の1くらいで済むと思います。でも、取材で事実をつかんで、そのまま書くからリアリティが出るわけではありません。ここは誤解されている部分だと思います。

例えば、会社を買収するシーンを書くために、買収の仕組みや手続きを詳しく取材しても仕方がない。そういうノウハウは本を読めばいくらでも書いてあります。

大事なのは、ファンドマネージャーが「何をもって判断するのか」。なぜこの人は、このタイミングでこの会社を買うと決めたのか。なぜこのタイミングでは買わなかったのか。そうした実際に携わっている人の生理的感覚や判断の軸を探っているのです。

取材相手が協力的な方だと、「じつは、小説でこういう展開を考えています。でも、今のお話からすると、このタイミングではなくて、もういくつか条件がそろうのを待つべきですか」と踏み込んで訊ねることもあります。そうやって集めた情報が、登場人物の存在をリアルにします。

バブル崩壊を、自分事として捉えるために

——事実関係ではなく、思考を聞いていくんですね。以前真山さんが「小説は、フィクションだからこそ真実を伝えることができる」とおっしゃっていたのを拝見しました。私も、物語に惹き込まれて、ドキドキしたり、ため息をついてしまうくらい切ない気持ちになったりしました。

映画やテレビでもフィクションを楽しめますが、小説は自分でページをめくって読んでいくので、より中に入ることができると私は思っています。1990年代の金融危機が、現場の当事者にとってどれだけつらかったか。でも、その裏には現場を切り捨てた上層部がいる。

「ハゲタカ」を読めば、嘘をついて逃げ切ろうとする人たちに対して、怒りがわいてくるはずです。そうすると、新聞や教科書で読んだことのある歴史が自分事になります。

——「ハゲタカ」は、ある意味で歴史小説なんですね。

結果的に、そうなりました。区切りごとにある「◯年◯月 地名」というクレジットは、場面が飛んだときに読者が迷子にならないようにと思って入れました。でも当時、金融機関に勤めていた人は、それを「◯年◯月は、この近くの◯◯支店にいたな」と、自分との共通項を探す手がかりにしてくれていたのだそうです。

NHKでドラマ「ハゲタカ」が放送されたときに、「このドラマを父が毎回自分の部屋で1人で観ていて、終わったら目をはらして出てくる」という感想をいただきました。「ハゲタカ」の小説やドラマは、バブル崩壊でつらい思いをした人が、10年くらい経ってはじめて、当時を振り返る手引きとしての役割を果たしたのでしょう。そういう意味では、平成時代について書いた歴史小説でもあるのです。

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