「ハゲタカ」は日本社会への警鐘。投資家が信念をもつべき理由〜小説家・真山仁さんインタビュー【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・「ハゲタカ」で振り返る平成とこれから / 真山 仁

2004年に出版されたシリーズ第1作から、「ハゲタカ」と呼ばれる投資ファンドの実態を描き、ヒットし続けている経済小説「ハゲタカ」シリーズ。今年の夏には再ドラマ化され、シリーズ5作目の3.11前後を描いた『シンドローム』も発売されました。作者の真山仁さんは、そもそもなぜハゲタカファンドの企業買収者を主役に据えた小説を書こうと思い至ったのでしょうか。
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真山仁は、いかにして「ハゲタカ」にたどり着いたのか

——真山さんが『ハゲタカ』を書いたことにより、「ハゲタカ」という言葉やハゲタカファンドの存在は、一気に認知度が上がりました。真山さんがデビュー作で、「ハゲタカファンド」をテーマにしようと考えられたのはなぜですか?

その質問に答える前に、小説を出版することになった経緯からお話ししましょう。

「真山仁」としてのデビュー作は『ハゲタカ』ですが、その前の年に『ダブルギアリング 連鎖破綻』という小説を共著で書いているのです。これは、生命保険会社の破綻をテーマにした小説です。

本来は、小説を共著で書くというのはあまりないことです。しかも共著者は、初めてお会いした生命保険会社出身の方でした。でも私はそうした異例のケースであっても、小説を出したかった。それはなぜか。小説家になりたかったからです。

『ダブルギアリング』を共著で書かないかと言われた時、私はちょうど40歳でした。16歳の時から小説家を目指していて、新聞記者やフリーライターの仕事をしながら、懸賞小説の投稿などもしていましたが、デビューには至っていなかった。だから、このチャンスを逃してはいけないと思って飛びつきました。この小説がそこそこ売れて、好評いただいたので、次はひとりで書かせてもらえることになったのです。

——もともと、経済小説を書いてみたいという気持ちはあったんですか?

いえ、全然。ひとりで書くとなったときも、経済小説を書くつもりはありませんでした。じつは私は、最初に勤めた新聞社でも経済部に所属した経験はなく、そもそも経済に興味がなくて。その後フリーランスになってからは何でも書いていましたが、広告の仕事でミュージシャンや俳優に、エンターテインメント関係のインタビューすることが多かったのです。

——そうだったんですね! ずっと、経済畑を歩かれてきたのかと思っていました。

40歳になる手前くらいから、ダイヤモンド社で金融関係の書籍のゴーストライターをはじめました。でも、専門というわけではありませんでした。正直、デフレでもインフレでもどっちでもいい、くらいの人間だったのです。でも、編集者から「デビュー作は金融をテーマにした小説にしてください」と言われてしまいまして。

当時、金融業界出身の作家が経済小説を書くというケースが多かった。それで、金融素人の私が書くなら、どなたも手がけていないビジネスのほうがいいだろうなと思いました。そこで頭に浮かんだのが、ハゲタカファンドです。

「ハゲタカ」は本当に悪なのか?

——ハゲタカファンドというのは、安値で買った株式や債券などの資産を、高値で売り抜いて儲けようとする投資ファンドのことですよね?

はい。『ダブルギアリング』を書いているときに、生命保険の破綻について調べていると、この「ハゲタカ」という言葉がよく出てきました。彼らは、生命保険会社が持っている優良不動産を安値で買って、その直後に転売する。そうすると、いきなり数十億が入ってきます。そんなことをやっているハゲタカファンドが、日本の金融界をめちゃくちゃにした、というのが当時の定説でした。

でも勉強していくうちに、それは違うと気付いたのです。「ハゲタカ」というのは、コンドルやハゲワシの俗称です。コンドルやハゲワシは死肉をあさるので、それを外資系ファンドが破綻した企業に群がって買い叩く姿になぞらえて「ハゲタカファンド」と言っていたわけです。でも、ハゲタカは基本的に死にそうな生き物の上にしか飛ばないのです。

——ハゲタカファンドに買われる企業は、ハゲタカが来る前から死にかけていたわけですね。

そうです。そして、死にかけた原因は自分たちにある。日本企業の体質や、当時の大蔵省に問題があったのに、なぜかすべて外資のハゲタカのせいにしているという構図が、とても日本的だと感じました。人のせいにして自分を顧みない姿勢を見直さないと、この国はダメになる、と思ったのです。

欲望のままに金に狂った自分を反省もしないで、会社がつぶれてものうのうと生き残ろうとする人。その愚かさを上手に利用して儲ける人。そうした人間模様を描くことが、現在と未来への警鐘になればと思って『ハゲタカ』を書きました。

——日本社会への危機感があったんですね。私も『ハゲタカ』を読んで、「このままではいけない」と強く思いました。そんな『ハゲタカ』がヒットしたおかげで、当時に比べて企業が情報開示するようになったり、日経平均株価も上昇したりして、日本経済が上向いたのかなと思ったのですが、それについてはいかがでしょうか。

いやあ、それだったら日本はもっといい国になっているんじゃないでしょうか(笑)。日経平均が上がったのは、日本企業の経営が健全化して業績が上向いたから、ではありません。

日経平均は1989年に4万円近い史上最高値を記録しました。その後バブルが崩壊して、7千円くらいまで落ちてしまった。そこから、失われた20年どころか30年近くを経て、昨年2万3千円くらいまで回復したわけです。それでみんな、大喜びしている。

でも、バブル期とは明らかに変わってしまったことがあります。それは、株主の外資系比率です。1989年当時、日本企業の株を買っていたのは大半が日本の投資家でした。それが、今は30%以上が外資です。

——そうなんですか!

外国人投資家は、株価でしか判断しない

バブルがはじけるまでは、いろいろな規制をかけて日本の株式市場は外国の投資家を閉め出していました。でもバブル崩壊後、そうはいかなくなって、外国人投資家に門戸を開いた。それなのに、2万数千円までしかいかない状況だと考えれば、大喜びするようなことではありません。

——一方、アメリカの主要株価指数のダウ平均はこの30年で10倍以上になっていますもんね。

これはつまり、アメリカの金融自体がずっと成長してきている証です。外資を入れても2万円台にしかならない日本は、到底かなわない。

外国人投資家が日本企業の株を買うのは、基本的に利ざやを抜いて儲けるためです。何の不祥事も、業績の低下もないのに、ガクッと株価が落ちることがありますよね。それは外資系の投資家が、決算期の前に現金が欲しくて、株を操作して株価を上げてから一気に売ったりしているから起こるそうです。

——そんなからくりがあるんですね。

外資系の投資家の多くは、日本企業を綿密に調べた上で株を買っているわけではないことが多く、ほとんどが値動きだけ見て購入しています。多くの外国人投資家は、「東芝」という会社が長年、国民的アニメ「サザエさん」のスポンサーをつとめ、大手電機メーカーとして日本人から絶大なる信頼を得てきたことなど知りません。

こうした外国人投資家たちに支持されるためには、株価を上げ続けなければいけない。それだけが唯一の評価指標だから。そうなると、事業がうまくいっていないことは何としても隠さなければいけなくなる。

——なるほど、それで不正会計問題が起きてしまった、と。

そうです。社長の評価は時価総額で決まるから、高値を維持しようと躍起になって、利益を水増しし続けてしまった。本来、メーカーが新製品を作るには、ある程度の赤字を覚悟して投資をしないといけない。仕込みの期間が必要なのです。でも、今は四半期ごとの業績で会社の価値が評価されてしまうので、赤字が続いていたら解任されてしまう。

かつて存在していた興銀(日本興業銀行)などの「長期信用銀行」は、長いスパンでお金を貸して、ゆっくり回収するためにありました。今は長銀の代わりに政策投資銀行が存在しますが、ここのお金は国のものだからそう簡単には貸してもらえません。

——企業にとっては厳しい状況ですね。

信念をもった「大人の投資家」が増えてほしい

株を買ってもらって資金を集めるのは一つの方法ですが、それだけしか選択肢がないと厳しい。いまは銀行がお金を貸してくれないので、株に偏重しています。バブルがはじけてから、日本がもともと持っていた多様な金融の仕組みがなくなり、企業は新規事業にチャレンジしにくくなってしまいました。

そもそも、時価総額が会社の価値である、と当たり前のように言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。

会社の価値を考えるとき、株価だけで判断してはいけない、と私は思います。株価が100円上がったからって、商品が値上がりするわけでも、社員の給料が上がるわけでもない。ではこの100円とは一体何なのか。それはただの、投資家の思惑が反映されたものでしかないのです。

——時価総額が◯◯兆円と言われると、何も考えずに「すごい」と思っていました。でも、たしかに企業の実態を表しているのかと聞かれると、そんなことはなさそうです。

本来、売上が上がっていれば株価なんて気にしなくてもいいのです。売上さえあれば、社員への給料も払えるし、新製品への投資もできる。少なくともメーカーはそうです。

でも今は、製品に磨きをかけるよりも、株価を上げることに一生懸命な企業がほとんど。時価総額で、自社よりも格下だと思っている企業に負けるのは嫌、というよくわからないプライドもあるようです。

本当に意味のあるM&Aをやっている人は、時価総額で買収するかどうかを決めたりはしません。参考にはするけれど、何よりも判断材料にしているのは企業の将来性です。

——将来性、ですか。

理想的な投資家とは、企業と一緒に成長していく投資家です。安く買って高く売ることだけを考えているのではなく、企業をよく知り、その企業を応援する目的で長期投資をする投資家が増えたらいいと思っています。

例えば、iPS細胞の臨床応用にチャレンジしている会社があるとします。もし自分が、iPS細胞の可能性を信じていて、その技術をもっと発展させたいと思っていたら、投資をすればいい。

実用化されるまでには、障害が起こるだろうし、「iPS細胞はリスクが高い」といった批判も出てくるかもしれません。それで株価が落ちてしまうこともあるでしょう。それでも、応援しようと思うなら株を簡単に手放さず、持ち続けるべきです。そうした大人の投資家が増えることを願っています。
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