生き方を自分で決める。「ハゲタカ」の鷲津に学ぶ「武士道」とは~小説家・真山仁さんインタビュー【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・「ハゲタカ」で振り返る平成とこれから / 真山 仁

「血も涙もない」「金儲けのことしか考えていない」……そんな「ハゲタカファンド」のイメージを覆す「ハゲタカ」シリーズ。その主人公である鷲津政彦は、大阪・船場の出身という設定です。なぜ、稀代の企業買収者は、大阪出身なのか。なぜ、『武士道』が「ハゲタカ」と結びついたのか。その根底には、作者・真山仁さんの日本に対する強い思いがありました。
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船場のおっちゃんは、企業買収もうまいはずだ

——ハゲタカシリーズの鷲津は、大阪・船場の出身という設定ですね。これはなぜですか?

世界の金融はユダヤ人が中心になって発展してきた、というイメージがあります。シェイクスピアの『ベニスの商人』でも、高利貸しをしているシャイロックはユダヤ人です。だから、ハゲタカファンドをテーマに書こうとしたとき、まずユダヤの商法を勉強しようと思いました。

そうしたら、最初に「相手を笑わせて懐に入ってからビジネスをするべし」「お金は大事、でも時にお金を捨てる覚悟も大事」といったことが書いてありました。そこで、「なんだ、大阪の商人と一緒じゃないか」と気付いたのです。

——真山さんご自身が、大阪のご出身ですよね。

はい。それゆえに、船場の商人についてはそれなりに知っていました。大阪の船場は江戸時代から商売の中心地でしたし、堂島の米市場でおこなわれていた、米相場の変動を利用して差益を得る取引は、先物取引の起源だとも言われています。つまり大阪は、金融が強い土地だったのです。

大阪でお笑いが盛んなのは、相手をリラックスさせて本音を引き出すという商人の考えがもとにあります。笑わせながらも、誰が信用できるのかを自分の目で見極める。それは、船場の極意なのです。

——意外にも、ユダヤの教えと船場の極意が重なった、と。

日本の金融界が恐れている外資系金融の根幹が、船場の商人と共通しているのはおもしろいなと。ハゲタカファンドのマネージャーは、外国人の特権など不要で、日本人でもうまくやれる。むしろ、船場のマインドがあればもっとうまくやれる、ということを書きたかった。

鷲津がやっているのは企業買収ですが、手法はまさに船場のやり手の商人そのものですよ。油断させて相手の懐に入り、相手が自分をなめた瞬間に勝負はもう決まっています。

武士道とは、死ぬことではなく、どう生きたかだ。

——私が『ハゲタカ』を読んで意外だったのは、武士道がテーマだったことです。武士というと清貧を重んじる、お金儲けとは真逆のイメージがありました。なぜ『ハゲタカ』に『武士道』を引用しようと思われたのでしょうか。

お金の損得の話って、それだけだと読んでいてだんだん嫌な気持ちがしてきます。なぜか。それはたぶん、根本にあるのが”欲望”だからです。「もっとお金がほしい」という欲望にドライブされる部分ばかりだと、読んでいるうちに「愛も誠も友情もなく、結局は金なのか」としんどくなってくる。そこで、お金以外に精神的な一本の軸が必要だと考えました。その軸となる哲学をずっと探していたときに、映画『ラストサムライ』に出合いました。

——私も観ました。あの映画は2003年冬に公開されて、大ヒットしましたね。

『ハゲタカ』を書く準備をしていた私は、『ラストサムライ』を観たとき、途中から涙が止まりませんでした。

——感動されたんですね。

いえ、悔しかったのです。すでに当時、日本はたくさんの資産をアメリカに買われて、経済を露骨にコントロールされ、身動きが取れなくなり始めていた時代でした。

そして『ラストサムライ』を観たら、そこには私の考える”完璧”な武士道が描かれていました。それで、「武士道まで、アメリカ人に教わらなければいけないのか」と悔しくなったのです。あの映画は、制作陣がとてもよく勉強していました。国の文化というのは、その国の人よりも外国人から見た方が理解しやすいということもありますね。先入観がなく、ストレートに学べるからです。

——そんなふうに『ラストサムライ』を観たことはありませんでした……。観直したくなってきました。

武士道の本質は、命がけで戦って、生き続けること。少なくとも、新渡戸稲造が1900年に著した『武士道』で言っていることはそうです。

あの映画は結末で、「武士道とは死ぬことだろう」と言われたトム・クルーズ演じるネイサン・オールグレンが、「どう生きたかだ」と返します。まさにこれこそが武士道であり、日本に足りないものだ、と強く感じて心が揺さぶられました。

そこで、「がめついハゲタカファンド」と思われがちな外資の企業買収者が、じつは日本で江戸時代からある船場商人のやり方から学んだという設定に。そして日本人の真髄を改めて見つめ直すために「武士道」を軸にするのがいい、と思いました。

——そんな深い意図が隠されていたんですね。

イメージばかりが先行してしまうと、本質が見えなくなります。鷲津を外資のハゲタカだと見ると会社を割安で買って高く売って儲けることばかり考えているかのようですが、実は彼の心の奥底では「人としてどうあるべきか」ということを考えているのです。

「ハゲタカ」シリーズを、古典を見直すきっかけに

——私も『ハゲタカ』というタイトルから、「ハゲタカファンドがいかにがめつくて冷酷か」ということが描かれていると思っていました。ところが実際に読んでみると、鷲津はむしろ日本を立て直そうとするヒーローに見えてきます。

『ハゲタカ』を出してから15年くらいになりますが、すごくうれしいのは「鷲津のようになりたい」と言ってくれる人がたくさんいることです。鷲津は、結果を出すためには手段を選ばない。言い訳をせず、自分の行動に対して責任を取ります。そして、常に前に進み続ける。そういうプロフェッショナルな姿勢に憧れる人が多いのだと思います。本当は会社の上司など、身近にそういうロールモデルとなる人がいるとよいのですが。

——『ハゲタカ2』では、坂口安吾の『堕落論』を引用されていますね。

『ハゲタカ2』では、鷲津を地獄に突き落そうと決めていました。世界を放浪し、何も得られず日本に戻ってくると、右腕のような存在が謎の事故で亡くなっていたことを知らされる。かつての恋人は自分を恨んでいる。そんな谷底に落ちた後、這い上がって、もっと強くなるというストーリーです。それに合うのは『堕落論』だなと。

『堕落論』は終戦直後の日本人に対して、負けたことをいつまでひきずってグズグズしているのか、そもそも、人間はそれほど立派な存在なのか、ということを言っています。

——私は『ハゲタカ2』の冒頭で引用されている、『堕落論』の「生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。」という箇所にしびれました。『武士道』も『堕落論』も、タイトルは知っていましたが、読んだことがなかったんです。ハゲタカシリーズを読むことで、これらの名作にも興味がわきました。そういう若者はけっこういるのかなと思います。

それはうれしいことですね。ぜひ原著を読んでみてください。

——最近、SNSの投稿や歌の歌詞など身の回りにあるものが、等身大で共感を呼ぶものばかりで。そういうコンテンツに慣れていたので、ハゲタカシリーズにはかなり感情を揺さぶられました。

共感を呼ぶ現状肯定のコンテンツとハゲタカシリーズは、真逆にありますね。とことん人を不幸にしていく話なので(笑)。

生活の中で、選択する力を磨く方法

——久しぶりに小説を読んでいろいろなことを感じ、とても濃縮された時間を過ごせたというか、生きたように感じました。不幸や挫折などを作品でぎゅっと追体験できるのはすごいことですね。

そう、本当は若いうちにいろんなことにチャレンジして、失敗して、乗り越える経験が必要です。でも、挫折することを今の人達は極端に恐れますね。すべてにおいてリスクを回避している人が多いように見えます。

現実で挫折できないなら、せめて小説の主人公に挫折してもらって、それを追体験するのがいいでしょう。読んで心が動いたら、自分の足で踏み出そうという気持ちになるかもしれません。

受験でも、就職や転職でもなんでもいいのですが、自分の人生の選択を、自分で決めることはとても大事です。責任を取りたくないから、失敗したくないからと人任せにしていると、どうしようもない事態に陥った時、かならず後悔しますよ。

——たしかに周りの言うことに従ったり、同調したりして、主体的に自分で考えていないことが多いかもしれません……。

いきなり大きな選択をするのは難しいので、最初は小さな選択で練習するといいですよ。例えば、今日のごはんをどこで食べるか。何人かでごはんを食べに行く時、いつも「行きたいところないから決めていいよ」という態度の人がいるでしょう。あれをやめるのです。「ここに行こうよ」って自分で決める。

そんな小さな選択でも、失敗と成功はあります。あんまりおいしくなかったり、高かったりすると「なんでこんな店にしたの」って言われるかもしれない。

——責任が生じるわけですね。

でも、失敗してもいいのです。それを糧に、今度はもっといい店を選べるようになるはず。そういうステップを踏んでいるうちに、選択する力が身についてきます。飲食店を決められるようになったら、今度はみんなで行く旅行先を決める、とかね。これはプレッシャーが大きくなりますよ。失敗するとかなり恨まれるから(笑)。

——そうやって、人生の大事な選択に備える、と。やってみます! では最後に次の世代を担う若者にメッセージをいただけますか。

今の日本は、いつ国家破綻するかわからないとか、戦争が起きるかもしれないとか言われていて、不安定です。それにつられて若者も不安になっていますが、これはチャンスでもあります。既存の社会体制や経済が崩壊すれば、そのあとにはフロンティアが広がっている。自分たちが新しく社会を作り直すチャンスがきているのです。

前の世代と共倒れにならないためには、自分がこの国を背負って、変えるという意識を持つこと。人のせいにするのではなく、人生を切り開く主体性を持って生きてください。そうすれば、未来には希望が待っていますよ。


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