50歳になって、JINSとお金への向き合い方が変わった【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ジェイアイエヌ 田中仁社長 / 田中 仁

アイウエアブランド「JINS」を全国に展開するジェイアイエヌ。創業者であり、これまで業界に数々のイノベーションを起こしてきた田中仁社長は、「目先の売り上げより大事なことがある」と話す。経営者としてさまざまな試練を乗り越えて至った、「ビジョン経営」の本質とは。

メガネはとんでもなく可能性を秘めた商材

50歳を超えてから、「残された人生でやりたいことだけを本気でやろう」と考えるようになりました。創業者として、会社をできる限り理想の形に近づける。違和感を覚えることは思い切って捨てる。
なぜそう思ったかというと、そのころに父親が亡くなり、人生は有限だと実感したからです。私の人生もいつか終わりが来る。頭ではわかっていたことですが、あらためて自分ごととしてとらえたことで、生き方が変わりました。周囲に聞いてみると、50代で同じように感じたと言う人が多くいます。

40代までは、人生が有限だなんて考えもしませんでした。残りの時間など意識せずに、ひたすら突っ走っていました。高校生の時に、勉強が好きではないから商売で成功しようと決めて、地元・群馬の信用金庫に就職しました。その後、24歳で服飾雑貨製造業を起業し、メガネという商材に出合ったのが37歳のころ。

出張先の韓国で、「メガネ1本3000円・15分でお渡し」という張り紙を見た友人が、すごく喜んで2本購入したのを見て、興味を持ったのです。当時、日本ではメガネ1本3万円くらいが相場で、作ってから受け取りまで時間がかかるのが常識でした。私は視力が良くメガネを買ったことがなかったのですが、友人が喜ぶ様子を見て「これは商売になる」と直感しました。
SPA(企画から製造、小売までを一貫して行う業態)で「よいメガネを安く、早くお渡しすること」を実現すれば、きっと日本で人気が出る。そう考えて始めたのが、いまのJINSブランドです。

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JINSのビジネスモデルは瞬く間に人々に受け入れられ、後続の企業も参入してきたことで業界が大きく変わりました。私たちはその後も歩みを止めず、軽量メガネという新たな概念を確立した「Airframe」をはじめ、パソコンやスマートフォンが発するブルーライトをカットする「JINS SCREEN(旧JINS PC)」や、花粉をブロックする「JINS 花粉CUT」、そしてメガネ型ウェアラブルデバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」と、メガネに新たな価値を持たせることで、新市場を創り出してきました。

参入してから気付いたのですが、メガネは、すごく深掘りできる商材なのですよ。イタリアで13世紀に発明されたとか、日本にフランシスコ=ザビエルが鉄砲と一緒に輸入したとか言われているくらい、長い歴史がある。しかしその間、レンズの素材やフレームの形状が変わっただけで、大きな変化をしていません。それだけイノベーションの余地が残されている商材なのです。私たちにはまだまだやりたいこと、開発のアイデアがあふれています。

insert01手にすると驚く軽さの「Airframe」

ビジョンは「根っこ」 ないと倒れてしまう

新商品のアイデアは自分で思いつくこともあれば、研究開発部門のスタッフから出てくることもあります。しかし、よいアイデアは何もないところから降ってわいてくるものではありません。その背景に「ビジョン」がなければ、ヒットにつながるアイデアは生まれません。

木に例えていえば、「ビジョン」は根っこ。根っこに支えられて地上に出ている幹が「戦略」。幹から伸びる枝葉が「戦術」で、枝葉になる実が「商品・サービス」です。だからこそ、ビジョンがないと戦略も戦術も、その先にある商品・サービスも出てこない。すべてはビジョンから始まり、つながっているのです。

根っこ(ビジョン)をしっかりと地に張らず、実(商品・サービス)をたくさんならせると、どうなるでしょう。少し風が吹いただけで、木が倒れてしまいます。また、リンゴの木なのに、バナナも柿もならせようとしても、それは無理です。大きな根っこがあってこそ、その上に立派な幹と枝葉が育ち、そこから栄養をもらって実がたわわになり、そして倒れない。
会社が業績を上げて長く続くには、根っこであるビジョンが絶対に必要なのです。

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日本の会社はよく「売り上げ3億円ビジョン」など、数値目標としてビジョンという言葉を使います。しかし本来は、欧米で使われているように「理念」「志」のような価値目標を表す言葉です。数値目標ならわかりやすく簡潔ですが、価値目標というのは抽象的でとらえどころのない、奥の深いもの。私自身、本当に理解できているのか、いまでもわかりません。それでも1つ、はっきりと言えることがある。それはビジョンが「信念」に変わったとき、非常に強い力になるということです。

最初に申し上げましたが、私は50代になって、もう一歩も譲らないと決めました。生きている間に理想の会社に本気で近づける。そう思ったとき、いままで自分の中にあった「こうなりたい」というビジョンが、「絶対にこうなる!」という信念に変わって、魂が込められたように感じました。そうなると、誰にも負ける気がしない。

とはいっても、まだすべてをうまく言語化できているわけではありません。このような会社にしたいというイメージは私の中に明確にあって、2014年には新しいJINSのブランドビジョン「Magnify Life(マグニファイ ・ライフ=人々の人生を拡大し豊かにする)」を定めました。
ただ、何というか……いま感じている強烈な信念を一言で言い表すのがとても難しい。それは、5年、10年で実現できる生半可なものではない。100年、200年かかる仕事で、自分の代だけで成し遂げられることではないと思っています。

不思議なことに、ビジョンが信念に変わり“自分ごと”になったとき、物事の見方が変わりました。目先の売り上げに振り回されなくなったのです。

※2017年4月1日より株式会社ジェイアイエヌは株式会社ジンズに商号が変更となりました。