起業家の「背中を押す」キャピタリストでいたい~VC・佐藤真希子さんインタビュー【前編】

サイバーエージェント新卒1期生として会社の急成長を支え、さらに「ベンチャー企業を応援する仕事をしたい!」と、ベンチャーキャピタリストになった佐藤真希子さん。起業家を信じ、応援する仕事のやりがいと、国内の独立系ベンチャーキャピタルでは初の代表パートナーとして、数少ない女性キャピタリストとしての思いを語ってもらった。

起業家の「資質」を信じて投資する

みなさんはベンチャーキャピタリストという職業をご存知ですか? 「ベンチャー企業に投資する仕事」といった簡単なイメージでも、お持ちいただいていればうれしいです。

私たちベンチャーキャピタリストは、起業家が成し遂げようとしているビジョンを信じ、お金と知恵を出すことはもとより、営業や人材採用、財務や労務などの実務支援、資金調達のサポートなど、事業が成功するためのあらゆる支援を行います。

例えるなら「起業家が運転する車の助手席に乗り込み、はるか遠くにある目的地を目指して、短期間で一気に走り切る旅をする」ようなもの。投資先のベンチャー企業や起業家とベンチャーキャピタリストは、一蓮托生の関係にあります。

実際の業務内容は、将来大きく成長しそうな起業家や会社を見つけ出し、成長資金を投資させて頂くことにより、その会社の株式などを取得することがベースです。
投資をした後は、投資先の会社をモニタリングし、ベンチャーキャピタリストとしての知識や経験、ネットワークを活かして経営者に様々なアドバイスを行い、一緒に汗をかいて動き回り、企業価値を高める支援を続けます。
会社が成長を続け、株式を公開したり、他社がこの会社を買収するM&Aといった機会に、保有する株式などを売却することで利益(キャピタルゲイン)を得る。これが、ベンチャーキャピタリストの「攻め」の仕事です。

もちろん「攻め」だけでよいわけではなく、「守り」の仕事もあります。ベンチャーキャピタルが投資する資金のほとんどは、ベンチャーキャピタル自身が出しているわけではありません。
主に金融機関や事業会社などから出資をして頂き、法律に基づいて組合(ファンド)を組成して運用・管理しています。お預かりした資金をファンドの満期まで適法・適切に管理する、いわゆる「ファンドマネジメント」も、大事な仕事です。
私はiSGSでは「守り」の仕事もしていますが、ベンチャーキャピタリストは「攻め」も「守り」もできて、はじめて一人前といえると考えています。

起業家が事業に成功できれば、関係者はみんな幸せになります。企業の価値、つまり株価が上がれば、私たちベンチャーキャピタルも、ファンドに出資をしていただいた投資家も利益を得られます。新しい事業によって、消費者もよりよい、より便利な生活を送ることができることでしょう。最初は起業家の頭の中だけにあった製品やサービスが世の中に出て、それを使った人たちが「こんなサービスがほしかった」「すごくいいね!」と喜ぶのを目の当たりにしたときは、本当にうれしいです。ベンチャーキャピタリスト冥利に尽きる瞬間ですね。

でも、実際は、そう簡単に企業が育つものではありません。
会社というのは「生もの」で、順調だと思っていたら突然キャッシュフローが悪化したり、創業時からの幹部が抜けると言い出したり、日々いろんなことが起きます。起業家の華やかな成功の裏には、「生みの苦しみ」が山のようにあるのが現実です。

「引き際」が最も難しい

ベンチャーキャピタリストは起業家に寄り添い、必要なときには助言をしたり、人を紹介したりし、伴走者として必死に成長を目指します。
そんな中で、一番つらいのが「引き際」を決めることです。私たちは、起業家が思い描くビジネスの成功を信じて投資を決めますが、実際に事業をスタートしてみると、思ったほどニーズがなかったとか、タイミングが早すぎたとか、本当にいろんな理由でうまくいかないことがあります。

キャッシュは減っていくのに、事業は伸びない。そうなると、いまの事業をたたんで方向転換するか、あるいは起業の目的とは異なる、例えば受託といった仕事でなんとか会社を存続させるといった、当初のビジョンとは違う厳しい選択を迫られます。

こういう状況で正しい判断を下すのは、本当に難しい。
ほとんどの場合、起業家は会社をたたむ選択をしないし、投資を続けてきた私たちも、「まだいけるんじゃないか」「ここでやめるのはもったいない」という気持ちにどうしてもなりがちです。

しかしそういうときこそ、伴走者であるベンチャーキャピタリストが冷静になり、起業家に方向を転換するように促す必要も、時にはあると思っています。起業家の素質を信じるからこそ、生き延びることだけが目的になってしまった「リビングデッド(生きる屍)企業」にはならず、再び新たなチャレンジができるようにすることも大切です。

実際に過去にあった話なのですが、ある優秀な起業家と出会い、投資をしたけれど、その後は事業が思うように伸びず、創業時の仲間も会社を去ってしまい、残念ながら投資した資金を引き揚げる決断をしたことがありました。事業はうまくいかなかったのですが、その起業家はサービスの設計も構築も全て1人でできるスーパーエンジニア、加えて経営者としての経験もありました。

私は人間的にも魅力がある彼と、機会があればまた違う事業で一緒に再挑戦したいと思いました。そこで、いろいろ落ち着いたタイミングで彼と合いそうな起業家を紹介したんです。結果的に2人は意気投合し、彼は創業メンバー兼CTO(最高技術責任者)として、新たなベンチャー企業を立ち上げました。もちろん、私はその企業にも投資をさせて頂きました。今やそのベンチャー企業は、顧客数が対前年比300%と成長著しく、彼の最初の起業への投資でマイナスとなった金額をあわせても、大きなリターンを生んでくれることを期待しています。

起業家が壁にぶち当たったときに、起業家自身も成長しながら壁を乗り越え、ビジョンに近づいていけるかどうか。会社が生ものである以上、私たちは起業家の「素質」に賭けます。
起業家の「素質」というのは、お金でも実績でもありません。何一つ持たない若者でも、優れたビジョンを持ち、多くの人を巻き込み、ビジョンをどう実現していくか、愚直に努力を続けていくことが大事だと思っています。長い道の途中には、失敗をすることもあるかもしれない。でも素晴らしいビジョンがあれば、失敗も次への糧にすることができると考えています。

逆に、最初からビジョンがなかったり、ビジョン自体が小さい起業家は、それより先にはいけません。約10年ベンチャーキャピタリストの仕事をしてきて、起業家のビジョンや目線の高さ、どこを目指しているのかということは非常に大事だと、多くの失敗から学び、実感しています。