「イベント投資」で億へ到達〜夕凪さんインタビュー【前編】

  • リアル投資家列伝・身の回りのイベントから読む投資のヒント / 夕凪

小さい頃からゲームのカラクリに興味があった夕凪さんは、海外赴任をきっかけに本格的に株式投資を始めるようになりました。株式投資のカラクリを研究し、手応えをつかみかけた頃に、投資を辞めるか、会社を辞めるかの究極の選択を迫られることに……。そして、どのように今のような投資スタイルを築いていったのか、お話をうかがっていきます。

屋台の輪投げ、輪っかは2種類ある?!

子どものころ、TVゲームや大きなぬいぐるみなどの豪華景品が並ぶお祭りの屋台に、心を奪われた経験はありませんか?

「僕の場合は子どものころから屋台やゲームセンターの“カラクリ”を知るのが好きだったんです。屋台には輪投げがありますよね。あの輪っか、じつは2種類あった。お店の人が耳にかけているものと、手に持っているもの、それぞれで輪っかの内径が違っていて、上手な人には内径の狭い輪っかを渡すんです。商品が入りにくいように」

どこの屋台もそうだったわけではないかもしれない。そんなカラクリを見破る大人びた少年時代を過ごしたのが個人投資家の夕凪さんだ。

「大学生時代、パチンコにハマった時期もありましたが、そのときも同じでした。パチンコ台は規則上、1分間に100発以上の玉は打てないようになっていて、ほぼ100発なんです。0.6秒ごとに1発です。一方で、大当たりのルーレットが回る周期が4.8秒。0.6秒の8倍ですから、うまくタイミングを合わせると大当たりの確率が格段に高まる。頭の中で0.6秒ごとのリズムを刻みながら、少ない玉数で大当たりを狙って打っていました」

パチンコ好きが高じて一時はパチンコ機のメーカーへの就職も考えた夕凪さんだが、「パチンコ一辺倒でない人生も」と大手通信会社の子会社へ入社する。

シリコンバレーで始めた株式投資

「投資を始めるきっかけとなったのは職場での会話でした。シリコンバレーに赴任していた時期に、アメリカ人の同僚が『あの株を買おうと思う』『いや、こっちのほうが上がりそうだ』と話していました。自分もやってみようと、スターバックスとウォルト・ディズニーの株を買いました。当時、オンラインで取引できる証券会社が登場していたことも後押しになりました」

ITバブルが盛り上がっていた時期、夕凪さんはIT関連の企業の株も購入し、これらの株価がうなぎのぼりに上昇。投じた金額は、あっという間に2倍となった。

「『株の天才かも』とさらに資金を増やしたところで、ITバブルが崩壊。100万円以上の損失でした。サラリーマンにとって100万円は大きく、株なんてやるものじゃないなと思う一方、『このままでは、100万円を失っただけで終わってしまう』と。それは嫌で、日本に戻ってからも絶対勝てる『必勝法』を探していました。そんな方法はないということ、今ならわかるんですけどね(笑)」

「この株を買わないといけない人がいる」

必勝法探しの旅の途中、夕凪さんはあるカラクリに気がつく。

「普通、投資家は分析した上で株を買うかどうかを決めますが、中には『どうしても、ある時期・ある株を買わないといけない』という人たちがいる。彼らが買う少し前に先回りして買い、彼らが買って上がったところで売れば儲かるんじゃないかと思ったんです」

たとえば、ある企業が東証2部から東証1部へと昇格した場合。東証1部に上場する株価指数=TOPIXに連動する投資信託は、昇格した会社をポートフォリオに組み入れるだろう。株価や業績とは無関係に、昇格直後の会社の株を買わないといけない人がいるのは目に見えている。

「必勝法を探している途中で、こうした考え方を紹介している本に出合ったんです。これはおもしろいなと思って、2003年ころ、東証2部から1部へ昇格しようとしていた銘柄で試したところ、思い描いたとおりの値動きだったんです」

手探りで見つけた株主優待テクニック

同時に夕凪さんはもうひとつのカラクリにも着目した。今ではおなじみとなった株主優待だ。

「三光マーケティングフーズという居酒屋を展開する会社では、当時、年1万円以上の優待券がもらえました。しかし、その値動きをよく見ていると、優待の権利確定日に向かって株価が上がり、翌日になるとギュッと下がる。これは使えそうだなと思いました」

今でこそ株主優待にまつわる情報、小ワザの情報は豊富だ。しかし、夕凪さんが検証を始めた10年以上前となるとインターネット自体が発展途上だし、今のようにブログや情報サイトが充実していたわけではない。

「『権利確定日だけでも、株を持っていれば優待はもらえるんですか?』と会社や証券会社に電話をしたり、当時はまだ、現物の買いと信用の売りを同時に行なって値下がりリスクをヘッジしながら優待をもらう『クロス取引』の情報もなかった。自分で調べ、やってみて、『あ、こうなるんだな』と」

こうしたクロス取引では、信用売りのコストがかさんで損失が発生するリスクがあるものの、夕凪さんが「優待タダ取り」と名付けて広く知られることになった。市場変更や株主優待といったイベントに注目し、夕凪さんは日本株への投資を本格化させていく。

「元手は30万円、あとは毎月5000円ずつ追加投資していきました。入金額は合計100万円にも満たないと思います」

日本株への投資を始めてから8年、手応えをつかんだ夕凪さんは大きな決断をくだした。

究極の二択、投資を辞めるか、会社を辞めるか

「会社の配置換えです。次の異動先はとても忙しく、株をやっている暇がなさそうだった。株を辞めるか、会社を辞めるか――どちらを選ぶか数日考えましたが、投資の神様に言われた気がしたんです、『お前はもう会社を辞めろ』と。2000万円程度の資産で辞めることに不安はありましたが、神様のお告げに従おう、と」

退職した直後は凪いでいた株式市場に神風が吹いた。

「退職直後はギリギリ暮らしていけるかどうかのレベルでしたが、アベノミクスが始まってくれた。ここだと思って強気でせめて、あれで資金が一気に増え、ものすごく楽になりました」

アベノミクス株高の風に乗り、夕凪さんの資産は1億円を超え、著作を刊行するまでになった。

「もともと投資に否定的で、会社を辞めるときもいちばん反対していた両親が、本の出版を喜んでくれ、ようやく投資家としての自分を認めてくれました」