第8回 AIで実現される未来

この連載ではAIについて様々な側面から紹介してきた。最先端の深層学習を使ったAIにできることを簡単にまとめると、
・データの識別  画像や文章、音楽、動画、プログラムなどの分類
・データの生成  画像や文章、音楽、動画、プログラムなどの生成
・判断力の獲得  深層強化学習によるゲームの自動攻略

ということになる。特にデータの識別と生成は強力で、画像から文章、文章から画像、画像から画像など、あらゆる組み合わせでのデータ生成が可能になってきている。Googleはそのためのツールとして、先日Tensor2Tensorというツールも発表した。現状では、こうした汎用的なツールは、精度がいまひとつな側面もあるが、そういうことは時間とデータ量がいずれ解決する。人類はとんでもない道具を作り出してしまった。
第7回「人工知能の本命!? あらゆるゲームを攻略する深層強化学習」を読む

どんな未来がやってくる?

今のところ、ディープラーニングは画像分野を得意としているが、画像でできることは、将来的には「あらゆる」データに対して可能になってくる。

たとえば、小説を読ませたら動画になるとか、勝手に挿絵が出てくるといったものは簡単に考えられる。また、会議室にAI搭載機器を置いておくと自動的に議事録が生成されたり、そこで話し合われた内容をもとにプレゼンテーションのスライドが生成されるような未来もやがて実現するだろう。

強化学習を搭載したロボット漁船やロボット農場では、電力さえあれば、勝手に食料が獲得され、ロボット料理人によるロボットファミレスでプロ顔負けの見事な料理を極めて安価に食べることができるようになるはずだ。

AIの浸透と並行して、ビットコインに代表されるブロックチェーンのような非中央集権的な経済の流れも加速してくるだろう。通常の通貨は、国家が価値を保証しているが、ビットコインは価値の保証者がいない。そのかわりブロックチェーンという技術を使って、ネットワークにいるすべての人で価値を作り出すのだ。

実際に、高速のマシンを持っていれば、ビットコインの「採掘」に参加することができる。採掘について補足すると、ビットコイン全体が健全に運用されるためには、コンピュータによる膨大な計算処理が必要だ。その計算処理を手伝った人には、ビットコインが報酬として支払われるのだ。これを採掘、あるいはマイニングと呼んでいる。

私は人工知能用の高速マシンの空き時間に、イーサリアムという暗号通貨を採掘させている。これが電気代を引いてだいたい3日で7000円くらいの稼ぎになるのだが、1ヵ月にすると7万円だ。今年の2月から始めて、今や50万円ほどになっている。

「たった月7万円かあ」と思われるかもしれないが、それは日本に住んでいるからだ。たとえば平均月収が2万円程度のベトナムであれば、話はまったく変わってくる。この収入を元手として今すぐベトナムに引っ越せば、全く働かずしてそこそこいい暮らしができる。

もちろん、月に7万円を稼ぐ機械が100万円くらいしているので、実際には収支で見れば回収するまでにもっと時間がかかるが、考え方によっては1年で回収したあとはその機械が自動的に利益を生み出してくれるわけだ。

相場取引は、基本的に人間はAIには絶対勝てない。これから参入する人は全てカモにされる運命を背負っているだろう。すると、トレーダーという仕事が消滅する。経営は囲碁に似ていると言われるが、いずれ経営でもAIには勝てなくなるだろう。既に広告戦略はAIの方が高い成果を挙げていると言われ始めている。

「お金とは何か」という哲学的な問題

AIが食料を自動供給し、調理も行い、会社の経営戦略からなにからなにまでやってくれる、そうした時代になるともはや我々は「お金とはなにか」「働くとはどういうことか」といった、より哲学的な問題と向き合う必要が出てくる。

これまでそうした疑問は、政府や金融機関の一部が考えていれば良いことだった。私がとある大学の経済学部でプログラミングを教えた時、最初に考えたのは、プログラミングと貨幣経済は密接な関係があるということだった。というか、貨幣制度そのものが非常に強力なプログラムの一種であり、単に普段は人々が意識しないようにしているだけだということだ。

しかし現実には、人々は貨幣に支配されているようでいる。ところが実際には、貨幣とは無数にある交換可能な「価値」のひとつに過ぎないのだ。

たとえば田舎では、自分のところの畑にできたトマトを、隣の家の人に分ける、といったことが普通に行われている。このとき、見返りを期待しない人がほとんどだが、基本的には隣の家の人もなにか物をもらったときなどに「おすそ分け」という事実上の物々交換を定期的に行っていて、この段階では貨幣は必要ない。

価値交換について、もうひとつ分かりやすい例を出そう。たとえば男性が可愛い女の子とデートするとする。食事代を男性が全額払うかどうか、よく議論になる。

私の考えとしては、これは当然、男性が出すべきだ。次点としては、デートに誘った側が出すべき、という考え方もあるかもしれない。いずれにせよ、デート代という金銭は、女性に直接お金を渡しているわけではない。これも一種の価値交換だ。

男性が女性をデートに誘った場合、男性からは「美味しい食事」を提供して、女性からは「楽しい時間」を提供してもらうという価値交換が起きるわけだ。一般に女性が自分を綺麗に保つほうが、男性が自分を保つよりも高コストだから、綺麗な女性とデートするのにお金をケチる男はモテないわけだ。

知能革命後の世界で一番価値が高い人とは?

やがて、人工知能がすべての仕事を代替してくれて、なにもしなくても美味しい料理を誰でも食べることができるようになったら、人間が他の人間に対して提供可能な価値は「真心」しかなくなる。

おそらくロボットの作る料理がいかに見事でも、その料理から「真心」を感じ取ることはできないだろう。しかし、人間から愛情を込めて作られた料理を出されたら、それは感動という価値を生む。たとえそれほど美味しくなくても、気持ちが伝わることが大事なのだ。

仮に全ての人々がベーシックインカムで暮らし、人工知能が労働の大半を肩代わりする時代が来たとしても、人が人を思いやる真心よりも価値の高いものは、やはり人間しか生み出すことができない。

人工知能は農耕革命に匹敵するインパクトがある、とは、東京大学の松尾豊准教授の言だが、そもそも農耕革命によって生まれたのが貨幣であり国家であり、知能という考え方だ。であるとすれば、狩猟生活から農耕民族に生まれ変わったのと同じようなパラダイムシフトが、知能革命の後に起きるだろう。

農耕革命では、真面目で組織に順応し、よく働く人が高い価値を持っていた。メガネの発明が視力の差をなくし、狩猟民族としては生き残れなかった近眼で体力の弱い人でも高い価値を獲得できるようになった。知能革命が起きると、知能の低い人と高い人の知能の差がなくなり、農耕民族では地位の低かった人でも、その徳の高さを武器として活躍できる時代がやってくる。

知能革命後の世界で一番価値が高いのは、思いやりがあり、真心を持って人と接することができる人に違いない。身体能力や知的能力に劣っていたり、これまではむしろ「不器用」「変わり者」と呼ばれていたような人たちが、人への愛を武器に活躍する社会こそが人工知能により生まれるであろう次なる世界の姿ではないか。そう私は考えている。