「ボボズ」という新しい生き方が始まっている〜橘玲さんインタビュー【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・ お金に縛られず、幸せに生きるためのヒント / 橘 玲

新しい投資の指南書としてベストセラーとなった『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をはじめ、鋭い切り口が人気の作家、橘玲さん。これまで金融・経済を通して、「個人がいかに人生を設計するか」を発信してきた著者が、新刊では「幸せ」をテーマにしている。これからの時代、お金に縛られずに幸せな人生を送るには、どうすればいいの?

ギラギラしたお金持ちは、ダサい

――新著『幸福の「資本」論』に出てくる、アメリカの新上流階級「ボボズ(BOBOS)」に興味をもちました。アメリカのお金持ちというと、ウォール街で儲けて高層マンションの最上階に住んでいるイメージですが、いまは違うんですね。

「ボボズ」は、「ブルジョア(Bourgeois)」と「ボヘミアン(Bohemians)」を組み合わせた造語です。その多くが弁護士やコンサルタントといった専門家、または会社員であっても、独立したプロジェクトを任されるようなクリエティブクラスの人たちです。

名付けたのは、ジャーナリストのディビッド・ブルックス。彼の著書(『アメリカ新上流階級 ボボズ―ニューリッチたちの優雅な生き方』光文社)によると、典型的なボボズは夫婦ともに高学歴で、リベラルな都市かその郊外に住んでいる。ブルジョワ的な華美な暮らしを軽蔑し、かといって偏ったエコロジーに走るわけでもなく、最先端のハイテク技術を使って、自然の中で暮らすのが、ボボズのライフスタイルです。

――ギラギラしたお金持ちは、クールじゃない。

根っこにあるのは、1960年代にアメリカで始まったヒッピー文化です。伝統的規範を否定して精神世界を求め、「ドラッグ、セックス、ロックンロールがかっこいい」という価値観ですね。アメリカ人にとって、ヒッピー文化の影響ってかなり大きい。スティーブ・ジョブズからマインドフルネス(瞑想)が流行するグーグルまで、IT業界の成功者たちはもろに影響を受けています。

そういうボヘミアンに憧れる人たちがブルジョワになって、「ヒッピー文化×テクノロジー×資本主義」という独特なライフスタイルが生まれた。それが、ボボズです。

ボボズはお金があっても、カジュアルでいることを好みます。アルマーニを着て三ッ星レストランに行くよりも、ユニクロを着て近所のビストロに行って夫婦でおいしいワイン飲もうとか、豪華クルーズよりも子どもたちと山に登って自然に触れるほうがぜいたくだよね、という価値観です。

テレビをあまり観ないのも特徴です。アメリカでは、フットボールのシーズン優勝決定戦「スーパーボウル」がすごい視聴率で、熱狂的な騒ぎになりますが、ボボズはそういうものには興味がない。ビールを飲んで盛り上がるより、ワイングラス片手に知的な仲間と語り合う時間を大事にします。

「人的資本」がないと、ボボズになれない

――自由で知的で、ボボズってかっこいい。そういう生き方、憧れます。

ちょっと残酷な言い方になりますが、ボボズになれるのは、アメリカでも一部の限られたエリートたちです。その条件は、専門スキルをもち、自立していること。アメリカで「フリーエージェント」と呼ばれ、近年増えている働き方です。

フリーエージェントになる人は一様に、若いころからコツコツと自分の能力を磨いています。たとえばプログラミングの高いスキルがあって、常にその知識をアップデートしている人であれば、仕事を任せたい会社はたくさんありますよね。名指しで仕事が来るようになれば、不本意な異動や人間関係をガマンしてまで、会社に縛られる必要がありません。

このように、努力して「フリーなスペシャリスト」の立場を勝ち取った人が、ボボズというクールな生き方を実現しているのです。

――優雅な生活を手に入れるのは、簡単ではないですね。真似したいなら、まずは自分のスキルを伸ばすことから始めないと。

ちなみに私は、人が富を得るために必要なものとして、「3つの資本」を定義しています。1つは「人的資本」で、いま述べたような、労働市場から富を獲得できる専門性の高いスキルのこと。あとの2つは、不動産を含む財産を指す「金融資本」と、家族や友だちのネットワークである「社会(関係)資本」です。

出典:『幸福の「資本」論』より作成

「社会資本」は、直接お金になるわけではありませんが、友だと集まってBBQパーティをするとか、困ったときに助け合うとか、人間関係から富(幸福)を獲得することができます。典型的なのが地方在住の若者(マイルドヤンキー)で、収入は低く貯金もない人が多いですが、たくさん友達がいて、支え合って生きている。つまり、「人的資本」「金融資本」はないものの、「社会資本」があることで、貧しいけどけっこう充実している「プア充」になれるのです。

――なるほど。3つの資本のうち、ボボズは「金融資本」と「人的資本」が大きい人たちのことなんですね。

メディアが語る「右傾化」は間違っている

ボボズのような自由で知的なライフスタイルは、アメリカから他の先進国にも広まっていくでしょう。背景にあるのは、社会全体の「リベラル化」です。

――なぜ、社会がリベラル化しているといえるのでしょうか。

世界のビジネスの最先端である、シリコンバレーを思い浮かべてください。検索エンジンを使ったビジネスモデルを打ち出したグーグルや、iPhoneでスマートフォンという市場をつくったアップルが、決定的なイノベーションで他社を打ちのめしました。

このように、現代はきわめて高い知能をもつ人材がイノベーションを起こし、莫大な富や権力を握る社会です。善し悪しは別として、ずば抜けた知能の持ち主に富が集中する「知識社会化」が、現代の潮流です。

知識社会化が促す「ウイナー・テイクス・オール(勝者総取り)」のビジネス環境では、イノベーションを起こせる優秀な人材獲得が命です。さらにグローバル化も進んでいますから、世界中から自社に必要な人材を見つけなければいけません。そんな状況で、とてつもなく優秀なインド人のプログラマーがいるのに、アメリカファーストで「国籍が違うから」と言って社員にしなかったら、たちまち競争に敗れてしまいます。

同じように、「女性だから」「同性愛者だから」「宗教が違うから」「ハンディキャップがあるから」と言っていては、競争に勝てません。いまの時代、ビジネスの世界では、リベラルであることは“当然の戦略”なのです。

――メディアは「社会は右傾化している」と言いますが、まったく逆だと。

イギリスのEU離脱や、アメリカ大統領選に象徴される自国ファーストへの民衆の喝采を取り上げて、マスメディアは連日のように「社会が右傾化している」と警告しています。たしかに、「自国ファースト」の動きは欧米のみならず、日本でも顕著です。しかし、それは単に、「リベラル化」というメインストリームに対するバックラッシュ(反動)だと、私はとらえています。

アメリカでは、さまざまな指標で、「いまの保守派の価値観は、1970年代のリベラル派よりはるかに“リベラル”」だといわれています。これは日本も同じで、世界は「リベラル化」の大きな潮流の中にあります。国籍・肌の色・性別などを超えて、普遍的な人権を重んじる価値観を多くの人が共有するようになり、その中で台頭してきたのが、ヒッピームーブメントとグローバル資本主義が合体したボボズなのです。

次回は、ボボズが体現する新しい「人間関係」について、お話しましょう。

――楽しみです!