「お前、友達いないだろ」とイジメられても、平気です〜橘玲さんインタビュー【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・お金に縛られず、幸せに生きるためのヒント / 橘 玲

新しい投資の指南書としてベストセラーとなった『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をはじめ、鋭い切り口が人気の作家、橘玲さん。これまで金融・経済を通して、「個人がいかに人生を設計するか」を発信してきた著者が、新刊では「幸せ」をテーマにしている。これからの時代、お金に縛られずに幸せな人生を送るには、どうすればいいの?
「ボボズ」という新しい生き方が始まっている〜橘玲さんインタビュー【前編】を読む

人間に残された「最後の悩み」

――前回は、アメリカの新上流階級「ボボズ(BOBOS)」について伺いました。自分のスキルを最大限に活かして、組織に縛られない。そんなボボズ的生き方について、今回は「人間関係」という視点から、お話いただきます。

現代人にとって、人生の最大の悩みは「人間関係」です。食べるにも事欠く時代なら、お腹いっぱい食べたいとか、人並みの生活をしたいとか、もっと根源的な欲望に突き動かされます。でもいまは、貧困や病気はあっても、先進国で餓死者が出ることはほとんどありません。

衣食住がある程度満たされたとき、残る悩みは「人間関係」です。最近では、SNSなどネット空間での付き合いがこじれたり、リアルな世界でも会社の同期やママ友の間で微妙な「階層」ができたりして、人間関係が複雑化しています。

会社や学校、地域社会のような狭い共同体の中で、複雑な人間関係にからめとられて悩むというのは、とてもつらいことです。特に、日本社会は“出る杭”を良く思わないムラ社会で、人々は嫌われることを極端に恐れる傾向にあります。自己顕示欲を満たしつつ、みんなから嫌われないよう、はみ出さないように気を遣いながらヒエラルキーの上を目指すという難しいゲームに、人生のほとんどを使いながら生きている人が、とても多い。

アメリカでも、複雑な人間関係に悩み、うつ病になる人は増えています。私が思うに、ほとんどの「人間関係」の悩みは、本人の努力ではどうにもなりません。職場でのパワハラや学校でのいじめは、配置転換や転校のように強制的に環境を変えることでしか、解決しない。どんなに話し合いをさせて、反省をうながしても、いったんこじれた人間関係はリセットできません。

ボボズは、フリーエージェントという働き方をすることで、そのような悩みの原因となる人間関係から「降りる」選択をしています。つながりの強い共同体を捨てて生きるというのは、おそらく人類史上、初めて可能になったのではないでしょうか。

ドライな「貨幣空間」を増やす

――人間関係から「降りる」というのは、どういうことでしょう。会社に属さないというのはわかりやすいですが、生きている限り、人間関係はついてきますよね。

まず、私たちが生きる空間を「政治空間」と「貨幣空間」に分けて考えるところから始めましょう。「政治空間」とは、家族(愛情空間)や学校(友情空間)、会社、地域社会など、社会におけるさまざまな“共同体”を指します。そこでは周りから慕われ、支持される人が権力をもち、人々は愛情や友情によって結ばれたり、嫉妬や憎悪によって対立したりします。愛情や友情のよろこびも、人間関係の悩みも、こうした「政治空間」で生まれます。

一方、「貨幣空間」はグローバルなマーケットで、お金を介してフラットなやり取りが行われます。「貨幣空間」では損得勘定がすべての基準で、感情が入る余地はありません。レストランで食事をするとき、店員が「いい人かどうか」よりも、「お金に見合うサービスをしてくれるか」のコスパを重視しますよね。

私たちは無意識のうちに、「政治空間」と「貨幣空間」を区別しています。家事をしてくれる妻に現金を渡したらハウスキーパーになってしまうし、セックスの後、彼女に現金を渡したら売春婦です。家族や恋人に対しては、直接お金を渡さないことで、値段のつけられない「プライスレス」な関係だということを示しているのです。

ボボズは、「政治空間(愛情空間)」を家族や恋人などミニマルにしぼって、それ以外の付き合いを「貨幣空間」に移行させることで、複雑な人間関係にからめとられないようにしています。フリーエージェントとして働くことで、会社のベタな人間関係を、契約に支えられたドライな人間関係に置き換えているんですね。

強いつながりの中で、窒息する必要はない

――お金で関係を買うというのは、なんだか寂しい気がするのですが。

「政治空間」の強いつながりに支えられた共同体は、メンバーが情緒的共感をもっているうちは、人々に幸福感をもたらします。しかし、その一体感ゆえに、ちょっとでも異質なものを見つけたら、排除・差別する性質を持ち合わせています。学校のいじめがその典型です。共同体にある種の「残酷さ」は、誰もが体験しているでしょう。

一方で、「貨幣空間」はお互いの損得、ビジネス上の価値観などをベースにしていますから、異質な存在に対して寛容です。人種や国籍、宗教や性別などを超えてつながることができますし、考えが合わない人とは付き合わないようにすればいい。イメージとしては、映画プロデューサーがやりたい企画を実現するために、資金を集め、スキルをもつ役者やスタッフを集めて作品をつくり、終わったら解散するような関係ですね。

日本ではまだまだ、会社組織や学校、地域社会で「政治空間」を重視する風潮が強いので、こうしたフリーエージェント的なボボズの価値観は受け入れにくいかもしれません。

でも、何となく「こっちのほうがいいんじゃないか」と気づいている日本人は増えていると思います。最近の若者は、1人でフットサルのコートに行き、メンバーの足りないチームに入ってプレイし、ハイタッチして解散という遊び方をするそうです。年齢や仕事はもちろん名前も聞かず、終わってからの飲み会もない。インターネットやSNSによって、共同体に属していなくても弱いつながりをもつことが可能になり、むしろそっちに心地よさを感じる人が増えているのでしょう。

出典:『幸福の「資本」論』より作成

今回、ボボズ的な生き方を紹介した僕の新刊『幸福の「資本」論』は、どうやらそういう人を刺激したみたいです。Amazonでは紙の本よりkindleのほうが売れているという現象が起きていて、ネットリテラシーの高い若い世代に支持されているようです。

――kindleのほうが売り上げが多いって、すごいですね。

想像ですけど、プログラマやエンジニアのような自分のスキルを活かしてフリーエージェントとして働けるような若い人って、いわゆる「友達」が少ないと思うんです。それこそ、マイルドヤンキーみたいに学校時代の仲間とずっとつるんでいれば別ですが、ふつうは社会人になると、友達関係っていったん切れますよね。さらにフリーエージェントは会社組織に属さないので同期との人間関係もありません。

自由に暮らしている人に対して、周囲が嫉妬混じりで「でもあいつ、友達いないじゃん」って陰口をたたくことって、結構あります。そういわれていることを知って、「これでいいのかな」と迷うこともあるでしょう。

――「友達いないじゃん」って言われたら、結構ダメージ受けそうです。

そう、だから不安になるんだけど、おそらくそういう若い人たちが、僕の本を読んでいまの社会で起きていることを理解して、安心したのだと思います。人間関係がまったくゼロというのは孤独すぎますが、家族や恋人としっかりつながって、あとは価値観の合う仲間とのゆるい関係をたくさんつくっておく。無理に強いつながりの中で窒息する必要はなくて、ガマンできない人間関係はさっさと降りちゃって、居心地のいいつながりを見つければいい。それは、テクノロジーが発達した豊かな現代社会に生きるわれわれの特権とすらいえます。

――なるほど。次回はさらに突っ込んで、フリーエージェントになるために何をすればいいか。「これからの働き方」について、お話を聞きます!