成功の秘訣は、「好きなことにすべてをつぎ込む」こと。〜橘玲さんインタビュー【後編】

  • お金を語るのはカッコいい・ お金に縛られず、幸せに生きるためのヒント / 橘 玲

新しい投資の指南書としてベストセラーとなった『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』をはじめ、鋭い切り口が人気の作家、橘玲さん。これまで金融・経済を通して、「個人がいかに人生を設計するか」を発信してきた著者が、新刊では「幸せ」をテーマにしている。これからの時代、お金に縛られずに幸せな人生を送るには、どうすればいいの?
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「人生100年時代」は不安だらけ

――20代、30代で「人生設計」を考えるとき、どうしても将来への不安が出てきてしまいます。超高齢社会で、年金も破たんするとか、財政がもたないとか、暗い話ばかりですから。

いまや、100歳まで生きることすら珍しくない社会になりました。リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットの『ライフ・シフトー100年時代の人生戦略』がベストセラーになって、多くの人が「自分の人生も100年あるかもしれない」と、はっと気づいたわけですよね。

じゃあ、どうやって100歳までの人生を設計するのか。日本人の平均的なモデルだと、20代前半で就職して60~65歳まで40年くらい会社に勤めて、残りの40年近くを働いていたときに払った年金でまかなうという……。このモデル、持続可能なわけはないですよね。

年金ってつまり、資産運用を国にアウトソースすること。でもアウトソース先の国が1000兆円を超える借金を抱えていて、「本当に年金をもらえるのか」という人々の不安がすごく大きい。80歳くらいになって貯金が尽きて、年金もほとんどもらえず、ホームレスになる未来って、想像すると恐怖です。

――ますます、不安ばかりが募るんですが……。

じゃあ国の財政をどうにかできるかというと、個人の力では無理です。私が自分の本でいつも書いているのは、「あなたは、どうするか」。与えられた環境の中で、個人としてできることを考えましょう。

超高齢社会を、個人としてどう生き抜くか。人生設計を考えるとき、有効なのはやはり「3つの資本」のロジックです。

出典:『幸福の「資本」論』より作成

たいていの人は、老後を「金融資本」で乗り切ろうとします。年金もそのうちの1つ。自分が働いていたときに積み立てたお金ですから。これから年金の額が減るかもしれないから、せっせと貯金するというのも、「金融資本」に頼る考えです。でも、老後が40年あるとしたら、一体いくら必要なんでしょう。年間250万円ですごく質素に暮らすとして、40年だと1億円。日本のサラリーマンの生涯賃金は3~4億円ですから、子育てを終えて定年するときに1億円の貯金を残すなんて、よほどの幸運がないかぎりムリです。

そこで私が提案するのが、「人的資本」の活用です。

「生涯現役」を目指せ!

――「人的資本」って、自分がもっている、お金に換えられるスキルのことですよね。それを磨くのが、超高齢社会の不安に打ち克つ方法なんですか。

「老後」の定義は何かというと、「人的資本」がなくなって「金融資本」だけに頼って生きる状態のこと。いまの人々の不安は、その老後が長すぎることが原因です。昔は定年後を「悠々自適」と言いましたが、すっかり聞かなくなりました。長い老後、先立つものが心配で、悠々自適どころではないのです。

だったら発想を変えて、老後を短くすればいい。「人的資本」を使って80歳まで働けば、「金融資本」に頼る老後は20年で済むわけです。

わかりやすい例が、先日亡くなられた医師の日野原重明さん。100歳を超えても現役でいる姿は、まさに現代人にとっての“理想”です。登山家の三浦雄一郎さんや、女優の故・森光子さんなど、少し前までは特別な人の生き方だった「生涯現役」が、いまでは多くの人にとって、自分ごととして目指すべき姿になったと思います。

――確かに、「人的資本」がたくさんある人だったら、それをできるだけお金に換えて、現役時代を長くすればいい。でも、会社でしか通用しない「人的資本」だったら、定年後にいくら現役でいたくても、就ける仕事がないですよね。

まさにその通り。会社に滅私奉公して「使える社員」になったとしても、それが定年後に有効な「人的資本」とは限りません。むしろ、日本企業は専門性を磨くよりジェネラリストを育てることを重視しますから、出世に成功して役得を得るほんの一握りの人以外は、定年後、なにひとつスペシャルなものをもたない、「ただの人」になってしまいます。

酷なことを言いますが、40代、50代になってから「サラリーマンとしての人生」に疑問をもっても、もはやできることはほとんどありません。会社にしがみつき、無事に定年を迎えて、あとは年金が減らないことを“祈る”のみ。そうならないために、あなたに今からできる「人的資本」の活用法を教えましょう。

――ぜひ、教えてください!
「好きなことに人的資本のすべてを投入する」

これが、すべてです。

大企業も政府も、時代遅れ

好きなことだったら頑張れるって、誰でも経験したことがあると思います。足が速い、絵がうまい、ユーモアのセンスがある……。何かが得意というのは、人間にプログラミングされている遺伝子のわずかな“差異”です。子どものころから、私たちはその差異を使って、仲間の中で自分の「キャラ」を目立たせるという複雑なゲームをしています。それで褒められたり、認められたりしてますます頑張る。そういう好循環って、好きなことだからこそ起こり得ます。

「人的資本」って何かというと、結局は「専門性」なんです。たとえばコーヒーの焙煎を毎日研究して、何十年もお店で出し続けている人がいたとします。そんな人に、私がちょっとやってみたいといって「週末起業」でコーヒーの店を出しても、絶対にかなわない。競争に勝つには、人より多くの時間とお金と労力をかけて、いかにその能力を磨くかにかかっている。ですから、「人的資本」は分散せずに、一極集中するべきです。

欧米の組織は、基本的にジェネラリストよりスペシャリストを評価します。職業を尋ねたら、日本人は会社名を言いますが、欧米の人は経理部なら「会計士」、IT企業なら「エンジニア」と専門を答えます。ホワイトカラーというのは会社の看板を借りたスペシャリストで、転職しながらスキルを高めていくのが、欧米の常識です。

一方、日本は新卒一括採用で社員を採用し、部署を異動させながらジェネラリストを育てます。特に大企業はまじめで優秀な人が多いから、異動した先で一生懸命勉強しますが、ずっとスキルを磨いてきたスペシャリストにはかないません。

この違いは、グローバル化、知識社会化が進む現代において、厳しいハンデとなって日本企業を苦しめています。グローバルなビジネスの現場で、専門性が弱い日本人は相手にされません。結果、閉塞感が漂い、特に日本の大企業がイノベーションを起こせなくなっています。

先日、ある有名企業の話を聞いてびっくりしたのですが、自社ブランドとして出している製品のほとんどが他社から買ったものなんですね。自分たちの会社で開発した商品は、ほとんどない。中途半端なジェネラリストばかりでイノベーションができなくなったので、ベンチャーとかから買ってきて、なんとか体裁を保っているのです。

政治の世界でも、同じことが起きています。ちょっと学歴がいいとか、英語が話せる程度の日本の官僚が、国際会議で全然発言できない。ほかの国は、新興国の出席者も含めて、みんな博士号くらいはもっていて、その知識をベースに英語で議論が展開していくからです。この議論についていけない学部卒の官僚は、グローバルな場では「いないもの」とされてしまいます。

――ジェネラリストを育てる大企業や政府のやり方は、とっくに時代遅れになっている。

最近の優秀な大学生は、旧態依然とした日本の「有名企業」などに就職せず、コンサルから起業を目指したり、外資系の投資銀行やヘッジファンドに入って、20代で一生暮らせるだけの資産をつくろうと考えます。卒業後にゲームやアプリの会社を立ち上げて、5億円とか10億円で大企業に買ってもらったという話もいくらでもあるでしょう。これからはそういう人がますます増えていくと思います。

――会社や国に頼るのではなく、自分が好きなことをしっかり磨いて、「人的資本」を最大限に活用する。ポイントが見えてきました。

みんながみんな、フリーエージェントとして活躍できるとは言いません。会社を支える人材だって、もちろん必要ですから。ただ、新卒一括採用でジェネラリストを育てて、定年まで人材を抱え込むという日本企業のやり方が、完全にいきづまっていることは間違いありません。その中で苦しみ続けるのではなく、自分の好きなことを磨ける環境に身を移す勇気をもってほしい。できる人から変わっていかないと、社会は変わりませんから。

――時代の流れから言っても、これからはその方向性しかない。なんだか、背中を押されるようなお話でした。ありがとうございました!