失敗しなきゃ、成功もない。「一番風呂」を怖がるな!【前編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ JR九州 青柳俊彦社長 / 青柳 俊彦

2016年10月に悲願の東証1部上場を果たした、JR九州。JRグループの本州以外での上場はこれが初めてであり、人口減少・モータリゼーション化が進む地方のハンデを乗り越えての快挙だ。民営化以来、JR九州が歩んできた「挑戦の歴史」を振り返ってもらった。

「他がやってから、うちも」ではダメ

JRグループの中でも、われわれ九州は「挑戦する社風」が際立っていると思います。民営化したころから、「これ、おかしいんじゃないか」と言うと、上司から「じゃあ、良くなるようにやってみろ」と言われました。こっちも「よし、やってみるか」という気になって、力が入る。この社風は、大切に守っていかなければいけません。

JR九州のユニークな事例として、「ななつ星 in 九州」をはじめとするD&S(デザイン&ストーリー)列車がよく取り上げられますが、それだけではありません。特急電車での時速130㎞運転に初めて挑戦したり、女性車掌や指令員を初めて採用したり、車両の定期検査業務の一部を初めて外注化したのも、実はJR九州です。各所に散らばっていた指令室を一ヵ所に集めて組織化した「博多総合指令」も、JR九州が最初に構想して、他からは「そんなことできるか」と言われながら実行しました。いずれもいまでは当たり前になりましたが、最初にやった意義は大きい。

私自身も意識して、若い人が熱意をもって何かをやりたいと言ったら、挑戦できる社風をつくっています。会社が倒れるようなことはしてほしくないですが、まずはチャレンジしてみて、ダメならやめればいいし、良ければもっとやればいい。「最初の一歩」を躊躇させる組織には、したくないですね。

経営哲学なんてカッコイイことは言わないですが、社員にはいつも「一番風呂を怖がるな」と言っています。いいアイデアを思いついたとき、改善したほうがいい問題を見つけたときに、「他がやってから、うちもやろう」というふうには考えないでほしい。勇み足にならないよう、事前調査はしっかりしなければいけませんが、前例がないことにチャレンジする気概を持ってほしいと思います。

最初からうまくいくことなんて、ない

実際、JR九州が鉄道以外の事業に果敢に挑戦し、駅ビル不動産、マンション、流通、ホテルなどで利益が出るようになったのは、まず「やってみた」からです。当時はマスコミから、どんな餌にも食いつく貪欲な魚に例えて「ダボハゼ商売」と揶揄されながらも、できることは何でもやり、中には赤字のまま撤退した事業もありました。

九州でトップクラスにまで成長した不動産事業だって、「うまくいきましたね」と言われますが、当初は失敗だらけでした。最初のマンションは福岡市に作りましたが、全然売れませんでした。熊本県内に広大な土地を買って始めた宅地開発事業も、まったく人が集まらなくて、20年かけてようやく売却しましたが、大赤字。だから、最初からうまくいくなんてことは、ないんです。

それでも自分たちの手で失敗をすることは、大事だと思います。何が悪かったのかを振り返り、経験から学んだことを次に活かし、積み重ねていくことでしか、成功は得られませんから。不動産では、派手な開発をやめて身の丈にあった規模にし、マーケティングも自社で行い、ニーズを探ってきました。いまは主要都市や鉄道沿線の便利な立地に絞って、JR九州のブランドを打ち出した分譲マンション「MJR」、賃貸マンション「RJR」を展開し、高い入居率を保っています。

ホテルも、見よう見まねでのスタートでした。ハウステンボスに大きなホテルを建てて、ANA(全日本空輸)さんにご指導いただきながら運営を覚えていきましたが、なかなか集客につながりませんでした。いろいろとやってみましたが、やはり、サービスではノウハウをもつシティホテルに追いつけませんし、価格では大規模に経営するビジネスホテルに負けてしまいます。

そこでどうしたかというと、鉄道のお客さまが利用しやすい、宿泊特化型のホテルを作って差別化しました。アクセスのいい主要駅に、シティホテルとビジネスホテルの中間を狙ったホテル「ブラッサム」を展開し、好評をいただいています。最近はインターネット予約の自社システムを導入し、海外からのお客さまからの予約も増えています。

1つの事業が成功したからといって、未来永劫それで経営が成り立つとは思っていません。複数の事業を持っておいて、どこかの調子が悪くても、他のところで支えられるようにしておく。地面に根を張るがごとく、いくつもの収益源がある組織でいたいと思っています。

「九州を元気にできるか」が判断基準

われわれは鉄道会社ですが、いまや売上高の半分以上を鉄道以外の事業で稼いでいます。じゃあ、会社の存在意義、究極の目標は何か。それは、「九州を元気にすること」です。JR九州の事業は、街を元気にするためにあるというのは、私ども経営陣をはじめ、現場の担当者もみんな、同じ想いだと思います。

自分たちだけが儲かるという商売は、東京ではできるかもしれませんが、人口減少が進む地方では、まず無理です。地域が活性化することで、人が集まり、モノを買ったり飲み食いをしたりする消費行動が起きて、会社もうるおう。1社だけが利益を得るということは、ないのです。

民営化したばかりのころは、いかに鉄道に乗ってもらうかを考えていました。それから30年経って、いまは駅前にどうやってにぎわいを創出するかということに、知恵を絞っています。九州の玄関口「JR博多シティ」や、日本最大級の屋上広場をもつ複合商業施設「JRおおいたシティ」など、人の回遊を意識した駅前の開発を行っています。今後も、2021年春に熊本駅、2022年度には九州新幹線が開通する長崎駅でも、駅ビルの計画が進んでいます。

まちづくりで大事なのは、九州の人たちが何を考え、何を欲しているのかを肌で感じ、情報を収集すること。テナント1つとっても、地元の人たちが憧れるブランドで、かつその企業が「ぜひ九州に出店したい」と思ってくれることを重視します。判断基準は、「九州が元気になること」。ここは、ぶれてはいけません。

これからは九州にとどまらず、ここを発信地として日本全体、アジアにも元気を配る企業でありたい。最近では、JR九州ホテルブラッサム那覇が開業したり、グループの小売業・ドラッグイレブンが東京に進出したり、居酒屋うまやが海外に出店したり、新たな挑戦が次々と始まっています。

ホテル業も飲食業も、「鉄道屋が何をやっているんだ」「どうせ3日もすればしっぽを巻いて撤退するだろう」と言われて、実際に失敗を繰り返しながらもがんばって続けてきました。いままた、きっと「九州では良くても、他の地域で通用するのか」と思われていることでしょう。

でも、それでいいんです。自分たちで新しいことを始めて、1つ1つ作っていくのは大変です。それでも手間をかけることをいとわず、こつこつ努力することでしか、得られないものがあります。九州から出て、さらに厳しい競争の中でどれだけ力を発揮できるのか。みなさんの胸を借りて、経験を積んでいこうと思っています。

上場してからも、われわれの戦略は同じ。失敗を怖がらず、挑戦していく中で、不動産やホテルのようなメインとなる事業を1つずつ築いていく。そうやって地面に張る根をさらに増やし、九州の地で成長を続けていくことが、われわれの願いです。