「アジアの世紀」に生きるわれわれがとるべき戦略とは【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ アイスタイル 吉松徹郎社長兼CEO / 吉松 徹郎

20代、30代女性の半数以上が利用している、日本最大のコスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」。いまや化粧品選びの定番となったサイトを運営するのが、アイスタイルだ。創業者の吉松徹郎社長は、アットコスメによって「生活者中心の市場創造」を世界に展開しようと考えている。壮大な夢はいま、1つずつ形になり始めている。
業界の独自性に目をつけた「アットコスメ」の壮大な戦略【前編】を読む

化粧品サイト、海を越える

グローバル化が進んだいま、アイスタイルもまた、海外を視野に入れて動いています。
海外にそのまま持っていける商材というのは、3つあります。何かわかりますか?

酒とたばこと、化粧品。そう、世界中どこに行っても、空港の免税店の中心はこの3つですよね。たとえば食品は、国・地域によって嗜好が大きく異なります。海外に持って行くには“そのまま”ではなく、多少アレンジしなくてはいけません。一方、酒とたばこと化粧品は、すでに商品がグローバル・スタンダードですから、非常に輸出しやすいのです。

中国に住む女性が、日本の化粧品メーカーの動画を見てポチっと購入ボタンを押す。インドネシアに住む女性が、あるブランドがフランスとアメリカどっちのメーカーかも知らずに、「素敵なブランド」と認知して買う。そういう国境を超えた購買行動が、ネット上ではいくらでも起こり得ます。

つまり、化粧品市場のデータベースを共有し、ユーザーの声を活用するアイスタイルのビジネスモデルは、そのまま世界で通用するのです。

いま、われわれは海外展開のコマを1つずつ前に進めています。必要なことは国内と同じで、まずはデータベースの強化。海外のメーカーにも日本と海外のマーケットをつなぐパートナーとして、理解されはじめてきています。

海外の化粧品メーカーからすると、日本のマーケットは特殊です。百貨店の売り場に商品を置くのは大変だけど、アットコスメならパートナーになれそうだ。そういう反応が多く、手ごたえを感じています。英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語に翻訳したアットコスメ海外版に広告やeコマースをのせていけば、国を越えた大きなビジネスになるでしょう。

アジアでの販売チャネルの立ち上げも始まっています。中国の市場向けに、アリババグループが展開するeコマースサイトに出店しました。台湾でも2017年にアットコスメストアを3店舗オープンしています。

いずれは化粧品のグローバルランキングをアイスタイルが作って、世界中の人たちに見てもらいたい。そして、ユーザーの声を世界中のメーカーが参考にする。そんなふうになれたら、最高ですよね。

技術進化は消費をどう変えるか

IoTやAIといった技術が進化すればするほど、われわれがビジネスで“できること”が増えています。「ネットを活用してユーザーの声を化粧品業界に反映する」というビジョン自体は変わりませんが、技術の進化によって、創業時には考えていなかったようなことも、できるようになっています。

最近は商品自体の「個性」もデータ化できると気がつきました。たとえば、Aという美白化粧品があった場合、Aには「美白」「宣伝に出ていた女優さんのイメージ」といった、たくさんのメタデータがひもづいています。そのメタデータから逆引きして、「美白で人気があるサロン」「話題の美白サプリ」といった関連コンテンツを紹介していくと、ユーザーの中で美白に関する情報がどんどん蓄積されます。

こうやって商品にも個性をもたせて、コンテンツをつなげていく。最近、アイスタイルは「BID(Beauty ID)」という仕組みを導入し、化粧品店の店員、サロンの経営者、美容師やエステシャン、ヨガの先生など、美容に関するあらゆるプロフェッショナルにIDを付与し、アットコスメで情報を発信してもらうことを始めました。

これにくわえて、化粧品のブランドや、店舗、美容に関わるスペシャリストの知見など、たくさんのヒト・コト・モノがアイスタイルの中でデータ化されます。そしてそれらを蓄積し、ユーザーにとって最適のマッチングをしていく――。

これって、従来マスメディアがファッション誌などでやってきた「情報を与える・受け取る」という関係から一歩踏み込んだ、相手によって変化する相互作用的な「コミュニケーション」に近い方法です。この関係づくりを実現するべく、いまプラットフォームを構築しているところです。

ネットを活用すれば、ブランドの個性がよりダイレクトに生活者に届きます。おそらく、これからの時代は、メーカーは商品をつくる“プロセス”も、売らなくてはいけません。AKBの総選挙が典型ですが、あれは彼女たちの成長プロセスを見せることで、CDが売れるわけですよね。同じことを、ものづくりの世界でもやる必要があると思います。

たとえば、オーガニックの化粧品を売るとしたら、原料を育てている畑など環境に優しいという世界観をまるごと見せていく。そういう世界観が、生活者を魅了するのです。

「モノからコトへ」というのは言い古された表現ですが、この流れは続くでしょう。商品が完成するまでのプロセス、憧れの女優さんが使っているブランドやお店、そういう“コト”をつなげる文脈の中で、“モノ”の価値が決まる。

メーカーが“コト”の文脈を意識したものづくりをし、同じ文脈を好む人たちをどんどんファン化していく。そういう世界をネット上でどうつくるかが、勝負をわけるでしょう。

ただ、各メーカーがここまで実践するのは、大変です。そこで、アイスタイルの出番です。ブランドの個性をデータ化し、世界観が一致するユーザーにつなげていく。われわれはその役割を果たすことができます。技術が複雑になればなるほど、アイスタイルの存在価値は高まっていくでしょう。

夢の「目指し方」にこだわる

私が新社会人として働き出したのは、1996年。就職してすぐに山一證券が経営破綻してバブルが崩壊し、「失われた20年」が始まりました。さらに1999年に起業してすぐ、ITバブルがはじけるという目にもあっています。

ですから資金繰りには、相当苦労しました。最初はファンドがお金を入れてくれましたが、ITバブルがはじけた後は、みんな手のひらを返すように去っていきました。給料の支払いもままならず、金策に駆けずり回る中で、お会いした1人のエンジェル投資家が1億円の資金を援助してくれました。間一髪で助かり、あれほどお金のありがたさを感じたことはありません。

おそらく、最初の苦労が身に染みたのでしょう。お金ってすごく難しいし、その分感謝するし、扱いを慎重にしなければという思いがあります。お金には名前が書いてありませんが、何で稼いで何に使ったという履歴には、その人の本質が出る。一度お金でうそをついたり、目の前の利益に飛びついてつじつまの合わないことをしたら、あとで絶対に大変な目に遭う。ですから、お金が絡む大きな決断をするときには、常に自分のなかで、正しい意味付けがなされているかどうか検証するようにしています。

お金だけではありません。ビジネスにおいて、「何を目指すか」と同時に、「どう目指すのか」ってすごく重要だと思います。その目指し方に、倫理があるか、どうか。

私は前編でお話したように、事業を通して業界全体、さらに生活者を含む社会全体が良くなることを目指しています。大きなことを成し遂げようと思ったら、上から力ずくで抑え込むとか、ぱっと思いついたアイデアだけで差別化するとか、そういう方法ではうまくいきません。考えに共感してもらい、協力関係をつくって初めて、世の中の流れを変えるビジネスができるのです。

1999年に起業したとき、日本にはまだiPhoneもAmazonもありませんでした。ECサイトで買い物をしたり、スマホにアプリをダウンロードしたりするなんて、想像もしていませんでしたが、いま私たちは当たり前のように新しいサービスを使っています。

この変化と同じくらい、またはもっと大きな変化が次の15年に起きるとしたら……。そのときに何も変わらないでいることほど、怖いことはありません。

いま自分がアジア、その中でも技術力のある日本という国に生きていることは、とても恵まれていると感じています。19世紀はヨーロッパ、20世紀はアメリカ、そして21世紀はアジアの世紀といわれています。成長するマーケットがすぐそばにあり、さらにITの進化がこれからも私たちの生活を変えていくのは、間違いありません。

この流れのなかで、いかに次の変化を見据えて行動し、正しいポジションを獲得できるか。アイスタイルは世界を舞台に、まだまだいける。もっと大きく成長できる会社だと、信じています。