数値目標は、あえて言わない。喜ばれるものをつくれば、売上はついてくる!【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・ツインバード工業・野水重明社長 / 野水 重明

大躍進を続ける家電メーカー、ツインバード工業。ものづくりの街・新潟県燕市に本社を置き、顧客の声を起点にしたものづくりを実践している元気な会社だ。特に強いのは、これから増えていく単身世帯、2人暮らし世帯のニーズを掘り起こすこと。人口減少・成熟化社会にフィットした「新しいものづくり」について、野水重明社長に聞いた。
徹底した「顧客起点」が、洗濯時間10分の洗濯機を生み出した【前編】を読む

顧客のライフスタイルを想像する

この洗濯機、見てください。2017年秋に出した新商品で、キーワードは「10分で時短洗濯」。1人暮らしの会社員や、共働きの夫婦が、朝晩の空いた時間に洗濯する。ジムやジョギングで汚れた服をさっと洗う。そういう“ちょっとしたお洗濯”にとっても便利です。最大5.5キロまで洗えますから、小世帯なら、週末のまとめ洗いもできます。

いままでの常識からすると、10分ってかなり短いでしょう。これは、私たちがお客様のお声を集め、製品に反映するチーム「VOC(Voice of Customer)」が考えたアイデアです。当社はブランドプロミスとして「一緒に、つくる。お客様と。」を掲げ、ふだんから、ホームページ・SNSやコールセンターなどでたくさんのお声を集め、データベースをつくっています。そのお声を参考にしながら、さらに先にある「潜在ニーズ」が何なのかを検証するのが、VOCの役割です。

お客様からは、使ってみて「こうだった」「もっとこうしてほしい」とご意見をいただきます。しかし、それをそのまま反映させるだけでは、他社との差別化はできません。実はそのご要望の先に、お客様が無意識に持っているニーズが眠っているはず。メーカーの役割は、それを探ることです。

たとえば、現代の人々が、洗濯機に求めることって何だろう。何世帯も同居するような大家族は減っていますから、「たくさん洗う」ことではないはずです。むしろ1人暮らしや若い共働き夫婦が増えているので、「洗濯の時間を減らして、自分たちの時間を増やしたい」「部屋に合うシンプルなデザインがいい」といったことではないでしょうか。

VOCチームで議論をするとき、起点は製品ではなく、“お客様”。まず、ターゲットとする顧客層の住まい、年齢、職業、ライフスタイルなどの仮説を立てて、「朝起きて、歯を磨いて着替えて……」というふうに、1日の生活をたどっていきます。ここで大事なのは、お客様の行動を「動詞」つまり「コト」から見ていくことです。その中で、どういうお困りごとがあるのかを想像し、潜在ニーズを発掘していきます。

小世帯のニーズを追いかけて

前編でもお話しましたが、現代は需要を供給が上回り、ものがあまっている時代です。その中で価格競争に陥らず、お客様に選んでいただくためには、他社よりも深くお客様のことを理解し、期待水準を超える製品を提供することが絶対に必要です。

そのためには、まずお客様のお困りごと(潜在ニーズ)を見つけ出すこと。そしてそれを、デザインや技術によって解決するというプロセスが欠かせません。「10分で時短洗濯」も、VOCが考えたアイデアを技術部隊にぶつけました。明らかに難しい課題でしたが、「すすぎ、洗い、最後のすすぎ」という洗い方のプログラムを組み替えることによって、一定の洗浄能力と時短の両方を実現することができました。

このほか、忙しい現代人のために、買いおき、つくりおきがたっぷりできる冷凍室がついた、「2ドア冷凍冷蔵庫 ハーフ&ハーフ」も2017年秋にリリースしました。これは冷蔵室と同じ容量の冷凍室があり、買い物かご約2個分の冷凍食品が入ります。

こういう細かいニーズを見つけてカタチにしていくには、やはり当社が300人規模の小回りの利く会社であること、新潟県燕三条地域がものづくりの技術と伝統を受け継ぎ、課題を解決するまで粘り強く挑戦する気質であることが、大きく作用していると思います。

実は、洗濯機や冷蔵庫は、当社がこれまで手掛けてこなかった分野です。当社は大手家電メーカーが強い大型家電を避けて、低価格な小型家電を、大学生や若い夫婦といった小世帯向けにつくってきました。

しかしいま、少子高齢化・核家族化が進む中で、当社がターゲットにしてきた小世帯がどんどん増えています。そうなったとき、洗濯機、冷蔵庫という大型家電の分野で、小世帯向けのニーズを満たす製品があまりないことに気がついたのです。これは、当社がやるべきだ。そう思って、VOCで議論したところ、「時短できる洗濯機」「買いおきに便利な冷蔵庫」といったアイデアが出てきたのです。

多様化した個のニーズに、丁寧に耳を傾け、応えていく。お客様のライフスタイルを知り、さらに快適になるような方法をご提案する。そういうことを愚直にやっていけば、価格競争や買い替え需要を待つだけの“苦しい”ビジネスから脱することができるのではないでしょうか。

数値の押し付けは「悪循環」を呼ぶ

社長に就任したときから、社員に数値目標を掲げて達成させるというマネジメントは、やらないと決めていました。私自身、金融機関で働いていたとき、「この数字を達成しなさい」と言われると、おしつけられているようでモチベーションが下がると感じたからです。

それよりも社員に、「何のために働くのか」「会社の存在意義は何なのか」をしっかりと示して、共感してもらうこと。それが何より大切で、かつ難しいと感じました。

当社のようなコンパクトなサイズの会社は、機動力が命です。新しいアイデアを見つけたら、そこに向かって企画・開発や製造、営業、バックオフィスのみんなが一致団結し、スピード感をもって実現しないと、大企業と差別化できません。

どうすれば社員みんなが「一緒に、つくる。お客様と。」という理念を信じてくれるのか。そして各製品について、「これはいいから、やろう」という思いが腹落ちするのか。社長になってから試行錯誤を繰り返す中で、私があれこれ言うより、お客様との接点を増やすのが何より社員のモチベーションをあげると、徐々に気づいていきました。

たとえば私は、お客様のお声に耳を傾けようと、コールセンターの人を増やしたり、ホームページ・SNSを充実させたりしました。お客様や地域の方々と交流する「夏フェス。」というイベントも始め、2017年は2000人を超える参加をいただきました。

その中で、社員はどんどん変わっていきました。いつもは図面に向かい合っている開発や、工場にいる製造、品質保証、管理などの仕事をしている社員は、これまでお客様と接する機会がありませんでした。それが、お客様が喜ぶ笑顔を見たり、「この商品はいいですね」と言われたりして、ものすごく“誇り”を感じたようなのです。

世の中の人が認めて、喜んでくれるといううれしさ。
期待されているのだから、もっと頑張らなくてはというやる気。
社長が数値目標を上げて「もっとやれ」というより、よっぽど効果も意義もあることです。

逆に、数値を追いかけて何がなんでも達成しようとすると、自由度がなくなり、社員がきつくなり、結局、業績が悪くなる。この悪循環にはまらないためにも、ビジョンを掲げ、社員が働きやすい環境を整えることが先で、数値は後。それを守るのが経営者の使命だと、試行錯誤する中で学びました。

社員がやる気をもって働けば、数字はついてきます。絶対についてきます。

私はいま社長7年目で52歳。まだまだ勉強中で、たくさんの先輩方から教えていただきながら、経営者として向上しようと日々努力しています。まだまだ挑戦してみたいこと、学んでいきたいことが山のようにあります。

経営には、ラッキーなんて起きません。経営者が考え、目指したようにしかならない。そのことを肝に銘じて、社員やお客様、ステークホルダー(利害関係者)全員がハッピーであるかを自問自答しながら、これからも前に進んでいきたいです。