ネット時代には「エクセレント」でもまだ弱い。「アウトスタンディング」を目指せ!【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・ビジネスの本質を知る / 藤井 薫

うどん王国・香川県に、麺業界で知られた会社がある。その名も、大和製作所。創業社長の藤井薫さんは、「おいしくて、健康的な麺」の研究に没頭し、画期的な小型の製麺機を開発。国内トップのメーカーとなった。同時に、うどん、ラーメン、そばの開業者が繁盛するための学校をつくり、人気店を続々と世に出して「行列の仕掛け人」と呼ばれている。麺一筋の人生を送る藤井さんが、ビジネスの本質について語ってくれた。
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そこそこのレベルでは驚かない時代

近年、麺ビジネスで成功しているのは、個性を強く打ち出すお店ばかりです。うどんでいえば「つるとんたん」「楽々うどん」、ラーメンでは「博多一風堂」「一蘭」「ラーメン二郎」など。麺ビジネスの市場規模は縮小していませんが、昔ながらの平凡な店は淘汰され、とがった個性で感動を呼ぶお店が伸びています。

これはインターネットの発達が、大きく影響しています。誰でも、手軽にお店の情報を得られるようになり、その中でも「アウトスタンディング(突出して素晴らしい)」というお店に話題が集中するようになったからです。

インターネットが普及し、「食べログ」のような口コミサイトをみんなが使うようになって、「そこそこのお店」には人が集まらなくなりました。それ以前は、近所にあるから、ほかに知らないからという理由で、そこそこの店に我慢して行っていた人も多いでしょう。しかしいまは、簡単にさまざまなお店の情報を得られるようになり、多少遠くても、魅力的な店にわざわざ人が出向いて行きます。

はっきり言いましょう。これからの時代のビジネスは、「グッド」でも「エクセレント」でも、まだ弱い。さらに上をいく「アウトスタンディング」でなければ、生き残れません。

突出した個性を持つことと同時に、何か1つでもいいから「トップに立つこと」も必要です。私はよく麺学校の生徒さんに、「日本で一番高い山はなんですか」と聞きます。みなさん、「富士山」と答えます。その次に、「では二番目に高い山はなんですか」と聞くと、シーンとします。そう、二番目に高い「北岳」を覚えている人はほとんどいません。これが、一番と二番の差。たくさんの情報が氾濫する時代には、トップに立って人々の印象に残らなくてはいけません。

何も、大資本の会社と同じように売上や利益を大きくしようと戦う必要はありません。ニッチな分野に集中して、トップを目指せばいいのです。

あれこれ手を出さず、1つを掘り下げる

では、どうすればトップになれるのか。多くの方が失敗する理由の1つが、深く考えずに、あれこれとムダなことをし過ぎること。メニュー1つとったって、そうです。たくさんあれば顧客が喜ぶと思い込んで、平均点レベルのメニューを数多く出す店がありますが、浅はかだと思います。

穴を掘れば掘るほど、その穴は深くなる。小さな穴をたくさん掘っても、深くはなりません。メニューをたくさんつくって満足するのは、浅い穴をたくさん掘り散らかしているようなもの。それでは、トップになることはできません。

当社の隣町・丸亀市に「骨付鳥 一鶴」というお店があります。看板メニューは創業以来66年間、骨付鳥のみ。小鉢のようなサイドメニューはありますが、メインはこの1つです。鶏モモ肉を独自のスパイスで味付けし、窯で蒸し焼きにしたアツアツの一品は、ほかの店では味わえないおいしさ。平日でも300席が埋まり行列ができる繁盛店で、香川県の生ビール消費量でもトップです。

このように、単一商品を磨きあげ、お客さまが感動するレベルに持っていけば、余計なことをする必要がありません。小さい資本であればあるほど、「95点以上に達したメニューしか、店に置かない」という気持ちで、商品の完成度を高めるのです。

そしてアウトスタンディングのレベルの商品を1つでもつくれたら、しめたもの。感動したお客さまがインターネットで話題にし、深掘りした成果が一気に広がり始めます。あれこれ手を出してムダに時間を費やすより、「これだ」と思えることに、すべての情熱を傾けてください。

トップになれば、競争しなくて済む

ビジネスというと、競争して勝つというイメージを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、私の考えは逆です。わざわざ競争が必要なところに出て行く時点で、そのビジネスは失敗している。先ほど述べたように、自分が「やるべきところ」をしっかりと見つけてトップになれば、苦しい競争をしなくて済みます。

大切なのはむしろ、自分が何をやるべきなのかを自覚すること——。事業に対する「価値観」や「使命」をはっきりさせ、それを深掘りすることです。

当社でいえば、価値観とは「おいしくて健康にいい麺」。製麺機事業をやると決めた時から、私はどうせやるなら麺の世界を極めて日本一、いや世界一を目指そうと考えました。そこで社内に麺研究室を立ち上げ、小麦粉を分解し、麺に合う水や塩を探し……。おいしくて健康にもいい麺のロジックを見つけようと、寝食を忘れて追究しました。

また、製麺機を販売する中で、売って終わりではなく、お客さまの繁盛のお手伝いをしたいと強く思うようになりました。当社の事業に、「麺専門店の繁盛支援」という使命が生まれたのです。

いても立ってもいられなくなった私は、麺ビジネス開業者のための学校をスタートし、自分が勉強したことや、製麺機ビジネスの本質を追求するなかで培ったノウハウを提供するようになりました。いまも、お客さまとともに発展する道を模索しています。こんなことをしている製麺機メーカーは、世界中を探してもうちだけです。

「おいしくて健康にいい麺」という価値観に基づき、「麺専門店の繁盛支援」という使命を実行すると決めてから、当社の成長は加速しました。気がつくと、メーカーとして国内トップになっていました。競争したのではなく、やるべきことを見つけて追求した結果、いまがあるのです。