第1回 「決算スライド」にはビジネスのすべてが入っている

僕が『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』という書籍を出したのは2017年7月でした。発売前にFacebookで告知したところ、ものすごい量の反響があり、書店に並ぶ前に増刷が決まったほどです。

タイトルのとおり、決算を読み解くスキルを身につけることは、MBAを取得したり、英語を身につけることと同じくらい大事だと思っています。僕の本を多くの読者に読んでもらうのはとてもうれしいことなのですが、一方で悩ましいこともありました。「ハウツー本だと思ったのに違っていた」「シバタさんが資料をどう読んでどう考えるのか、具体的に知りたい」といった声が少なからずあったことです。

そこでこの連載では、僕が普段どうやって決算を読んでいるのか、実際の企業の決算を例に出しながら、皆さんとシェアしていきたいと思います。

小難しい決算は見なくていい

決算書というと「数字ばかりで難しい」「専門知識がある人が読むもの」と思っている人も多いかもしれません。確かに、白と黒の2色だけで彩られ、細かな数字と文字であふれた書類を読むのは骨が折れそうです。
一般的にイメージされるあの書類は「決算短信」と呼ばれます。僕は決算についての書籍を書いたり、注目する企業の決算や財務を解説するコンテンツを定期的に配信していますが、実は、僕が決算短信を読むことはほとんどありません。

では、代わりに何を見ているのか? 僕が見るのは「決算説明会用スライド」です(以下「決算スライド」)。上場企業が決算を発表すると投資家向けに説明会を開催しますが、そこで使われる資料が決算スライドです。

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ヤフー株式会社2017年度第2四半期決算発表資料より抜粋

決算スライドには「KPI」(Key Performance Indicator)、つまりその会社にとってカギとなる経営指標や売上、取扱高、利益などの主要な数字や、その推移などが見やすくまとまっています。重要な数字だけがピックアップされて記載され、グラフなどを用いて見やすく表現されているため、決算短信に比べてグッと読みやすくなっています。

「あの会社の決算はどうなっただろう」と思ったら、僕はiPadで決算スライドを開き、ソファにゴロンと寝転びながら読みます。白黒の決算短信を開くのは「この項目の内訳はどうなっているのだろう?」などと、決算スライドだけでは解決できない疑問が浮かんだときだけです。この読み方であれば、会計の知識がない人や学生でも決算の数字をもとに会社の特徴をくわしく知ることができるはずです。

決算を読めるようになると、こんないいことがある

決算スライドによって会社の特徴がくわしくわかると、普段の仕事や生活にも役立ちます。自分の会社の競合や隣接する業界の企業の動向を知ることで業界全体を俯瞰し、自社の相対的な立ち位置が把握できるようになります。クライアントや上司へ提案するときに競合との比較までしてあれば説得力が高まるでしょう。転職活動でも「あの会社は業界内でどんな位置にあるのか」を見ておけば会社選びの指針になります。

また、就職活動を控えた学生にも決算スライドは役に立ちます。「成長率には会社の個性が表れる」からです。たとえばLINEや楽天、スタートトゥデイなど前年同期比約20%ペースで成長しています。この3社のように売上が200億円を超えるような規模感になっても20%成長を達成できるというのはすごいことです。内部では大きなドラマが起きていることが容易に予想できます。

そういう勢いのある会社で働くのはやりがいがあるかもしれないけど、もっと安定した、落ち着いた雰囲気の会社で働きたいと思う人もいるでしょう。そんな人がドラマチックなベンチャー企業へ入社しても不幸なだけですから、会社の成長性だけでも決算スライドで確認しておけば、自分の性格と企業のミスマッチを防ぐことができるわけです。

では、決算スライドをどう読んでいけばいいのでしょうか? ここからは僕の読み方を具体的に説明していきます。

決算スライドの入手方法

まずは決算スライドを入手するところから始めましょう。決算スライドは会社のホームページで誰でも読むことができます。呼び方は会社によって「決算説明会資料」「プレゼンテーション資料」「スライド資料」などさまざまなので、個人投資家向けの情報が掲載された「IR」や「投資家情報」のコーナーで探してみてください。たとえば楽天の場合は、「楽天 IR」で検索すると、以下のページにたどりつきます。

IRのコーナーには、「通期決算(1年分の決算)」の決算スライドもあれば「四半期決算(3ヵ月分の決算)」の決算スライドもあります。どちらを読むべきでしょうか? 「通期のほうが長いので、四半期の数字よりもいいのでは」と考える人がいるかもしれません。

しかし、僕は通期の決算は見ません。見るのは3ヵ月おきに発表される四半期決算だけです。1年間全体の数字よりも直近四半期にしぼった数字を見るほうが、より細かな情報まで見られるからです。

直近の3ヵ月の数字を見ることのメリット

どういうことかくわしく説明しましょう。通期の決算というのは、4つの四半期をまとめた数字です。通期決算で比較する対象はその前の期、つまり決算が発表された時点からすると8四半期前の数字を含んでいます。8四半期前というのはつまり2年前ですから、とくにインターネット業界だと業界の様子は大きく変わります。現状にそぐわないかもしれない過去と比較した数字を見ても、将来を占うヒントは得にくいのではないかと思います。

1年間全体の数字よりも、直近の四半期にしぼった数字を見るほうがいい理由は、もう1つあります。それは、決算期のちがいです。会社によって決算期はちがいます。日本では3月決算の会社が多いですが、なかには12月決算の会社もあります。またアメリカ企業は多くが12月決算です。3月決算のA社と12月決算のB社を比べるとき、通期決算だと同じ1年間でもA社は「2017年4月から2018年3月まで」、B社は「2017年1月から12月まで」と計測する時期に3ヵ月のずれが生じてしまい、好ましくありません。

決算期はほとんどの会社が3、6、9、12月のいずれかに設定しています。3月決算の会社であれば「2017年9月から12月」の3ヵ月は「2018年3月期の第3四半期(Q3)」ですし、12月決算の会社なら「2017年12月期の第4四半期(Q4)」です。つまり「四半期決算であれば、決算期が異なる会社であっても同じ3ヵ月で比べることができる」、というメリットがあるのです。

この2つの理由から、僕は1年間全体の数字よりも直近四半期の3ヵ月の数字をみることにしています。

さて、次回からは実際の決算をもとに、「僕がどう決算スライドを読んでいくのか」を具体的に説明していきましょう。

題材として取り上げるのはスタートトゥデイ。ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する会社です。
ここ1年の動きを見ても「ツケ払い」の開始や「送料自由」の取り組み、採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT」の無料配布、プライベートブランドの発売など矢継ぎ早に新たな展開を発表することでも話題のスタートトゥデイですが、決算スライドを見るとスタートトゥデイという会社の特徴が鮮明になります。

<今回のまとめ>
●決算スライドは、重要な数字だけがピックアップされて記載され、グラフなどを用いて見やすく表現されているため、非常に読みやすい
●決算スライドが読めるようになると、就職活動や普段の仕事にも役立つ
●決算は1年間全体の数字よりも直近四半期の3ヵ月の数字をみる
本記事は決算書類の読み方を解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。