第3回 販管費の謎が示す将来の布石

第2回「ZOZOTOWNの決算スライドを読み解く」を読む
前回、スタートトゥデイの業績サマリーの最新の四半期の数字から、ZOZOTOWNで商品が売れると、テイクレートとして取扱高の35%が入るということ、そしてそれはeコマース業界内では異常に高い数字であることがわかりました。今回は過去の数字との比較で、スタートトゥデイの成長率がどれくらいなのかを見ていきましょう。

まず、商品取扱高ですが、この数字の推移を見ていると第3四半期と第4四半期の数字が大きくなっています。スタートトゥデイの決算期は3月なので第3四半期は10月から12月、第4四半期は1月から3月です。

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アメリカの小売業だとなおさら顕著なのですが、12月は「ブラックフライデー」(感謝祭の翌日の金曜日)やクリスマスがあるため、小売業の売上がドーンと伸びます。

そんな傾向があるため、アメリカの小売業だとQ1[※]からQ3(年初から秋まで)は赤字でも、Q4(年末)だけで荒稼ぎして、通期の黒字を確保するような会社もあります。小売業には季節性が強く表れるわけです。

※Quarter(四等分)を略して「Q」と表す。アメリカの場合、多くの企業が12月決算なので、Q1は1~3月、Q2は4月〜6月、Q3は7月〜9月、Q4は10月〜12月となる。

アメリカほど極端ではないものの、日本でも季節性による売上の増減があり、とくに売上が大きくなりやすいのが12月から3月にかけてです。12月はクリスマスですし、1月は初売りや年初のセールがあるためです。広告業界なども同じく年度末である3月に予算消化のニーズを吸収して売上が増えやすい傾向があります。スタートトゥデイを見てもその傾向が感じられます。

「前年同期比」で成長率をチェック

ここでは、「商品取扱高」ではなく、前年同期比の「伸び率」を見てみましょう。期を追うごとに伸び率がだんだんと大きくなっているのがわかります。これは(いい意味で)異常です。というのは、事業が大きくなればなるほど、成長がたいへんになるものですから、通常は成長率は「寝て」(水平に近づいて)いくのが普通です。ところが、スタートトゥデイの場合は、成長しながら伸び率が高まっている。つまり加速度をつけながら成長していることになります。

話は少し横道にそれますが、株式投資では主に2つの宗派があります。ひとつはバリュー投資。企業が稼ぐ利益に対して株価が割安かどうかに着目する方法です。もうひとつが、グロース投資。何かというとグロース、つまり成長性に着目する方法です。シリコンバレーの企業は、利益なんて関係なく成長性をめざします。

Amazonがグロース企業の典型で、成長性だけを求めるため利益はほぼゼロ。利益が出るようなら、その分も投資にまわして、さらなる成長をめざします。利益を追求すれば成長性が犠牲になるし、成長性を求めれば利益は出にくい――利益と成長性は常にトレードオフの関係にあるわけです。

これを踏まえると、スタートトゥデイの異常さがなおさら浮き彫りになります。利益をきちんと確保しながら、しかも加速度をつけて成長しているからです。利益と成長性のトレードオフがスタートトゥデイでは成り立たっていません。企業の成長を見るときには、こうした点にも着目してください。

次に、「営業利益」の前年同期比も見ておきましょう。営業利益というのは、売上高から、売上原価および販売費、一般管理費などの各種コストを差し引いて残った金額のことです。つまり、「もうけ」ですね。通常の企業の活動は、この営業利益を増やしていくのが大きな目的となっているわけです。

スタートトゥディの場合、直近では4.9%と伸びてはいるものの伸び率は急速に鈍化しており、一方では販管費が増えています。前回、商品取扱高の増加率と販管費の増加率を比較したときも販管費の増え方は気になったポイントでした。やはり販管費については後でくわしく見る必要がありそうだということになります。

営業利益率の感覚値を知っておくと便利

ここで、営業利益率についてもチェックしておきましょう。

営業利益率=営業利益÷売上高

ですので、スタートトゥデイの直近の四半期の営業利益率は、

営業利益率=58億5000万円(営業利益)÷212億4200万円(売上高)=27.5%

ということがわかります。
スタートトゥデイのテイクレートは35%ですので(第2回参照)、たとえばZOZOTOWNでA社の1万円のコートが売れると、スタートトゥデイの売上は3500円となり、それの27.5%、960円ほどがスタートトゥデイの利益になるということです。営業利益率がわかると、商品1点あたりの利益さえ計算できるわけですね。

テイクレートと同じく、営業利益率の数字についても感覚値を覚えておくと便利です。

たとえば、インターネットのメディア/広告ビジネスでは、市場シェアが大きいプラットフォーム会社の営業利益率はおよそ50%が目安。たとえば、フェイスブックの営業利益率はおおよそ50%程度です。すごい効率ですが、独占か、それに近い圧倒的なマーケットシェアがあり、ブランド力も強いメディアの広告ビジネスであっても50%くらいが上限なのです。

グーグルの営業利益率は25%程度と高くないのですが、これには理由があって、利益を残さず投資を積極的に行なっているためです。トヨタ自動車だと10%もないくらいですし、スタートトゥデイと同じくアパレルのユニクロ(ファーストリテイリング)も10%弱。インターネット企業と比べると見劣りするように感じますが、じつはこれでも非常に優秀な数字です。その他の製造業だとさらに低くなるのが一般的で、たとえばパナソニックは5%弱です。

こうした水準を踏まえた上で改めて考えると、スタートトゥデイの営業利益率27.5%は極めて優秀な水準にあることがわかります。

補足になりますが、会計上の利益には営業利益以外にも、経常利益や純利益という概念もあります。経常利益は本業以外の損益を加味したものですし、純利益は経常利益からさらに税金を差し引いた利益です。好みもありますが僕が見るのは営業利益です。グローバルでも営業利益(Operating Income、またはOperating Profit)が使われることが多いので、営業利益を見ておけば問題ないでしょう。

40ページある決算スライドのうち、まだ4ページ目までしか進んでいませんが、こうした業績のサマリーだけでも企業の特徴や成長性などがかなり見えてくることがご理解いただけたかと思います。

販管費の謎

さて、これまでに2度、販管費がひっかかっていました。1度目は、販管費が直近の四半期で急増していたこと。2度目は、営業利益率の伸びが鈍化する一方、販管費が増えていたことです。
一体、スタートトゥデイに何が起きているのでしょうか?

こういうときは、ひっかかった項目の内訳を見てみると答えが見つかることが多いです。ここでは、「販管費の内訳」を見ていきましょう。

2017年3月期Q2と2018年3月期Q2を見比べると、人件費は増えているものの、社員数が増えているので特に問題ないと考えていいでしょう。

荷造運賃も大きく増えています。増減要因を見ると「配送運賃の変更」と書かれていますが、送料を利用者の任意に任せる「送料自由」を行なった影響かもしれません。あるいは、運送業者が値上げしたのかもしれません。それ以上はここからはわかりません。

「代金回収手数料」は前年同期比で2倍近くに増えていまです。スタートトゥデイは、2016年11月に「ツケ払い制度」を開始しました。ZOZOTOWNで買い物をして商品を受け取っても支払いは2ヵ月後でいいよ、という制度です。通常の決済よりも、ツケ払いのほうが回収コストは高いでしょうから、「これはツケ払いのコストが増えているのかな」と推測できます。

さらに「業務委託手数料」を見ると、2倍以上に増えています。どうやら、このあたりにも答えがありそうだなと想像しながら、増減要因を見ると「PBローンチへ向けての業務委託」と書かれています。PB、つまりプライベートブランドです。
これは一体何なのか?

その答えは決算スライドと同時に公開された資料にありました。「決算説明会Q&A集」や決算説明会の模様がアップされたYouTubeです。これを見ると、詳細が説明されていました。設備投資に9億円、アメリカやドイツに子会社を設立して2億円の合計11億円です。設備投資の9億円が大きいように感じますが、「究極のフィット感を実現するための機械設備」のためとされており、これは後に「ZOZOSUIT」のことだと判明します。

これで、販管費が急増した理由がわかりました。つまり、送料の増加、ツケ払いによると想像される代金回収手数料の増加、将来のZOZOSUITへ向けての投資の3つによるものです。

今後もさらに販管費が増えていくと利益に影響が出そうですが、送料については2017年10月に「送料自由」から「一律200円」へと変更し、また配送業者がこれ以上の値上げを行なってもユーザーに負担してもらうこともできるため、長期的に大きな影響があるかと言えば、そうでもないだろう、と考えられます。

注意したいのは、ツケ払いの回収手数料です。今後、ツケ払いの利用が増えるようだと、利益を圧迫する要因になるかもしれません。今後、スタートトゥデイの決算スライドを見るときには注意する必要がありそうです。

さて、ここまでは、スタートトゥデイの成長率をメインに見てきましたが、次回は、決算スライドを読むうえで、最低限知っておきたい「バランスシート」「キャッシュフロー計算書」「自己資本利益率」の見方を説明していきます。

<今回のまとめ>
●利益と成長性は常にトレードオフの関係にある
●営業利益率の感覚値を覚えておくと便利。フェイスブックは約50%、トヨタ自動車は10%弱、パナソニックは5%弱
●販管費の急増は、内訳や外部資料を見てみると理由がわかることがある
本記事は決算書類の読み方を解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。