課題だらけの労働市場。それでも「はたらいて、笑う」人を増やしたい【後編】

  • 上場企業の社長に聞く! 夢とお金の本質・パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長 CEO / 水田 正道

派遣事業の老舗「テンプホールディングス」が、グループ名を「PERSOL(パーソル)」に一新した。あえて知名度の高さを捨て、ブランドを統合した目的は何か。国内での深刻な人手不足が進む中、人材派遣・紹介事業がどう変わろうとしているのかを、水田正道社長に聞いた。
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過去最大のM&Aでアジアを強化する

「PERSOL(パーソル)」にブランドを統合したとき、「はたらいて、笑おう。」というタグラインを掲げました。私はこのタグラインを、理屈抜きに気に入っています。

日本の労働市場は、これから人手不足をはじめたくさんの課題にぶつかり、変化の波にさらされます。その中で「はたらいて、笑おう。」を実践できる人を増やすために、当社は何ができるのか。PERSOLの役割はそこに尽きると思う。

ただ待っていても、人を笑顔にはできません。率先して変化の波に乗り、自らの働き方も、人材サービスという事業のあり方も、刷新していかなければいけません。変化のポイントはいくつかありますが、前回はその中でも、これからの時代に必須である「多様性を受け入れる働き方」についてお話しました。

あと2つ、注目しているポイントがあります。その1つが「海外」です。国内だけに閉じずに、海外、特にアジアに人材サービスの仕事を広げることで、人々の成長の機会を増やしていきたい。そのため2017年10月にオーストラリアの人材サービス大手・プログラムド社を買収しました。

海外においてはこれまでも、米人材サービス大手のケリーサービスと業務提携し、アジアでの採用支援や人材派遣を手がけてきました。さらに今回の買収で、アジア・パシフィック地域で最大級の総合人材サービスグループになりました。当社にとって、過去最大規模の買収です。

プログラムド社は、設備・施設メンテナンスの分野で強みを持つ会社です。多くの優秀な人材を抱え、また設備や施設メンテナンスの長期契約、運営といったノウハウをふんだんにもっています。これからはアジア全域に人材サービスを広げるだけでなく、インフラ整備に必要なノウハウを展開していけるでしょう。

世界No.1を目指すのは、われわれの体力ではなかなか難しい。ですから当社は「アジアNo.1」に目標を絞って、その分、集中的に投資をします。

国境の壁をなくして、適材適所で人が動き、仕事を通して成長できる。そういう社会って理想的ですよね。国際情勢を見ると、きな臭いことがいろいろ起きていますが、国を越えて働く人が増えることっていちばんの国際交流だと思います。しかも、日本の人手不足の問題にも貢献できる。いいことだらけですよ。

AI時代の労働者に寄り添いたい

もう1つ、注目するポイントは「ミスマッチ」です。

以前、野村総合研究所が「10~20年後に、日本の労働人口の約49%の職業は、AIで代替可能になる」というレポートを発表して話題になりました。この推計が正しければ、近い未来、労働者の約半数が職能と仕事の間に「ミスマッチ」を抱えることになります。これって相当、深刻なことです。

当社はこうした「ミスマッチ」を最小限にとどめるために、人材サービスを通して貢献したい。「ミスマッチ」が起きてしまっても、適切なキャリアチェンジと、そのための就業訓練があれば次に進めます。当社が登録者に対して適切なアドバイスと就業訓練を施し、企業が必要とする能力を身につけていただけるよう、お手伝いしたいと考えています。

AI時代の到来なんて、壮大に聞こえるかもしれません。でも実際に、コールセンターへの大規模なAI導入など、人からAIへの仕事の代替は始まっています。これがもっと進んだときに、働く人たちが労働市場からこぼれ落ちないよう、サポートするのは大事なことです。

それこそ、企業のニーズと労働力をただマッチングするだけなら、AIでいいんですよ(笑)。そのほうが精度が高いので。じゃあ、人がやるべき仕事とは何か。当社が提供するサービスのキモは、アナログなところにあります。

1人1人の能力や希望をしっかりと理解して、適切な仕事をご紹介して、丁寧にフォローアップしていく。そういうアナログなサービスを地道に続けていくことこそが、当社が支持されるために必要なことだと思います。

経営者に必要な3つの態度

私をこの会社に引っ張ってきた創業者の篠原欣子から、しょっちゅう言われたことがあります。「水田さん、絶対カッコつけじゃダメよ!」「水田さん、絶対威張っちゃダメよ!」「水田さん、絶対怒っちゃダメよ!」。この3つだけあれば、経営者は十分だと。

実際に経営者になってみて、どんなにかっこいいビジネスモデルを掲げても、社員や顧客との信頼関係がなければ達成できないと、つくづく感じました。そのためには常に謙虚でいて、威張ったり怒ったりしてはいけない。篠原に言われた通りです。

だから仕事の上では、誠実にコツコツと信頼関係を築くことを自らに課しています。私はあまり怒るタイプではありませんが、嘘や不正は絶対に許しません。一瞬で信頼関係を崩すようなことをする社員は、一緒に働くことはできません。誠実さが、すべての基本です。

そういう意味で、東洋の思想がすごく好きなんですよ。私は長く禅をやっていますが、あれはまさに自然体の追求。あるがままの自分を知る行為ですよね。西洋思想は逆で、例えば庭園を作るとき、噴水のような不自然なものを作る。「自然に打ち克とう」という意思が根底にあるんですね。東洋の庭では自然に逆らわず、高いところから低いところに水が流れます。

絵画を見てもわかります。西洋の油絵は額縁の中をすべて色で埋めますが、東洋の水墨画は空白がいっぱいある。あいまいさをたくさん残した表現をするんですね。こういう東洋の思想って、人間をもマルかバツかで判断せずあいまいさを許容する、多様性を受け入れやすい文化だと思うんです。

自然体、そして誠実さ。どんなに労働市場が変わっても、人間がはたらいて、笑って生きていくために必要なことはあまり変わりません。

私は長く営業畑を歩み、仕事を通して人に「ありがとう」と喜んでもらうのが生きがいでした。だから社長としても、登録している方や顧客の企業を笑顔にしたい。そうやってPERSOLを、たくさんの「ありがとう」であふれる会社にしたいですね。