貯金できない人が自覚するべき、「現在バイアス」の罠【前編】

  • お金を語るのはカッコいい・正しい意思決定を阻むモノ / 大竹 文雄

銘柄選びから売買のタイミングまで、投資は「意思決定」の繰り返し。株価が下がり始めたらすぐに損切りするなど、合理的な判断ができる人が成功する。しかし、なかなかそれができないのが人間というもの。行動経済学を専門とする経済学者・大竹文雄先生に、人間の合理的な意思決定を阻む要因について、解説してもらった。

三日坊主で終わる人の「意思決定」

投資をするには、まず資金が必要です。でもなかなか貯金ができない人って、いますよね。「今年こそ貯金しよう」と言いながら、結局、洋服や食事に使って残らない人。なぜ、そういうことが起きるんでしょう。

私が専門とする「行動経済学」は、人間がふだん行っている意思決定と、情報を集めて熟考して行う合理的な意思決定との間にある“ずれ”を研究し、経済の事象分析に役立てる学問です。

たとえば、1ヵ月後に原稿執筆の締め切りがあるとします。すぐに手をつけて1日2時間ずつ毎日書けば、余裕を持って終わらせることができる。これが合理的な意思決定ですが、実際にこういう行動を取れる人は少ないですよね。

ほとんどの人が、時間に余裕があるからといって「明日やろう」と先延ばしにし、ギリギリになってから焦り出す。これは、とても非合理的な意思決定です。

「貯金できない」「ダイエットが長続きしない」といった行動も、まったく同じ。行動経済学が対象とする現実的な人間(ヒューマン)の典型的な特徴の1つです。計画を立てたのに、先延ばししてしまう――。

こういう人間の特徴は、「現在バイアス」と呼ばれています。

現在バイアスの強弱を測る質問として、「子どものころに夏休みの宿題をいつやっていたか」というものがあります。調査の結果、約7割が最後のほうであわてて片付けている。もう1つ、同じ人たちに「夏休みが始まる前はいつやるつもりでしたか」と聞くと、みなさん「前半にやるつもりだった」と答えます。

夏休みが始まる前にはガマン強い計画を立てられるのに、実際には毎日いやなことを先延ばしにして楽しみを優先する。結果、後で苦しくなる。これは、将来得られる利益は小さく見えて、目の前にある現在の利益が大きく見えるから。思考が現在に偏っているから、「現在バイアス」というのです。

貯蓄やダイエットの前に立ちはだかるのが、この「現在バイアス」の壁です。

必要なのは「意志の強さ」じゃない!

人間には誰にでも現在バイアスがあります。じゃあ、貯金できる人とできない人の違いがどこにあるのか。それは、現在バイアスを自覚しているか、どうかの違いです。

自分には現在バイアスがあると知っていれば、対策を立てることができます。たとえば夏休みの宿題で計画を実行するのが難しいと知っている子は、午前中に宿題をやってから遊びにいくと決めるとか、親に約束するとか、ルールで自分を縛ることができる。

貯金でいえば、給料から毎月天引きする契約を金融機関と結ぶとか、制度としてデフォルト(あらかじめ設定する)してしまうのがいちばんです。

人間は基本的に面倒くさがりで、いったんデフォルトしたものをあえて変えるのを嫌がる傾向があります。「最初の1年は無料」という宣伝文句、マーケティングでよく使いますよね。これは、「無料」につられて契約し、2年目から有料になっても解約しない人が多いからです。同じように、天引き契約を途中で変更するのは面倒なので、多少家計が苦しくてもガマンして続けるでしょう。

細かいゴールをたくさん設定して、達成感を味わうというのも、効果的です。たとえば、毎月いくらという目標額を決めておいて、クリアしていく。それを人に話すとか、ささやかなご褒美を自分にあげるとか、「小刻みな報酬」を与えていくのも、長続きするコツですね。

貯金やダイエットが続く人は、意志が強いのではなくて、実行が難しいことを「知っている」のです。こういう人を、行動経済学では「賢明な人」と呼びます。逆に、実行できると思い込んでいつもできない人のことは、「単純な人」と呼びます。

みなさんは、どちらですか?
現在バイアスの克服は、自覚することからスタートします。知識を持って、ぜひ「賢明な人」を目指してください。