第8回 広告型・個人課金型ビジネスの決算の読みかた

前回まで、フィンテック型、SaaS型のビジネスについて解説してきました。ネットビジネスのなかでも大きな地位を占めているのが、広告型のビジネスです。広告型メディア企業の代表例であるFacebookを見ているとさまざまな広告が表示され、ついクリックしてしまうことがあると思います。そうやってクリックされた数や、クリックしてから買い物された成果の一部が、Facebookの収入源となります。これがネット広告型のビジネスです。
第7回「『月額いくら』のビジネスモデル「SaaS」決算の読みかた」を読む

広告ビジネスを読み解くうえで重要な指標

広告型では、どんなメディアが成功しやすいのか――。広告主の気分になって考えると想像しやすいと思います。どんなメディアであれ、広告を見てくれる人、つまりユーザー数が多いメディアに広告を出したいと思いますよね。なおかつ、自分たちの商品に興味を持つ人が多く集まっているメディアに出稿するのが理想です。100万人に広告が届いたとしても、その商品を買ってくれる人が少なかったら、広告を打つメリットは薄れてしまいます。

これを広告ビジネスの立場で考えると、いかに多くのユーザーを集め、「1ユーザーあたりの売上」を最大化するか、という点がすべてになります。この1ユーザーあたりの売上を、「ARPU」(アープ)といいます。

つまり、広告ビジネスにおいては、ユーザー数とARPUが高ければ高いほど、収益が高くなります。

売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)

ところが、一般的にユーザー数とARPUはトレードオフの関係にあります。たとえば、ARPUを上げるために、特定の分野に特化したメディアを作るとします。クックパッドをイメージするとわかりやすいかもしれません。
クックパッドを見にくる人の目的ははっきりしています。美味しい料理を作りたいからクックパッドを訪問するわけです。そうであれば、「調味料の広告を打ちたい」と考える広告主がいたらクックパッドに出稿したくなるでしょう。

ところが、「美味しい料理を作りたい人」というターゲットを絞れば絞るほど、見にくる人の数は少なくなります。最初の要件であるユーザー数は小さくなってしまうのです。

日本の医師を網羅しても売上を伸ばすエムスリー

このユーザー数とARPUをどんな方法で増やしているのかを知るのが、広告型の決算を読むときのコツになります。「エムスリー」の決算スライドを例に見ていきましょう。

エムスリーは医師に特化したメディアを運営しています。会員になると、医療に関する最新ニュースや海外論文を読めるほか、医師同士で意見交換することができます。また、開業準備や転職の支援サービスもあります。

決算スライドを見ると、日本の会員数は20万人から25万人程度で横ばいとなっているようです。

エムスリー株式会社2018年3月期 第3四半期決算発表資料より抜粋。
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日本全体の医師数が約30万人ですから、エムスリーは日本の医師ほぼ全員を網羅しています。国内については頭打ちとなっていますが、世界への展開で会員数を増やしています。

また、次のスライドを見ると広告主である製薬企業からの単価を引き上げ、同時に利用企業数を増やすことで売上の拡大を狙っていることが読み取れます。

つまり、「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」の方程式に当てはめていえば、世界展開によってユーザー数を25万人から400万人に増やし、製薬会社への働きかけによってARPUを増やそうとしていることなります。

広告と個人課金を組み合わせた食べログ

同じくターゲットを絞ったメディアである食べログの決算スライドも見てみましょう。

株式会社カカクコム2018年3月期第3四半期決算説明資料より抜粋

まずは、ARPUを割り出します。「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」ですので、この式を入れ替えると次のようになります。

ユーザーあたりの売上(ARPU)=売上÷ユーザー数

スライドを見ると食べログの月間利用者数は1.3億人。四半期の広告売上高が6億円です。月ごとに直すと2億円ですから、

2億円÷1.3億人=1.53円

つまり、1ユーザーあたりの1ヵ月の広告売上は1.53円となります。この数字だけを見れば、「意外と儲からないな」という印象です。

しかし利用したことがあればご存知かと思いますが、食べログには広告だけでなく個人課金ビジネスもあります。

個人課金ビジネスの方程式も、これまで見てきた広告ビジネスの方程式と同じ「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」です。広告ビジネスと個人課金ビジネスのちがいを強いて挙げるならば、広告ビジネスの売上は間接的に「広告主(企業)」からもたらされ、個人課金ビジネスの売上は直接「ユーザー」からもたらされることです。

では、食べログの個人課金型のARPUを計算してみましょう。

個人課金者数は149万人。個人課金の四半期売上が6.8億円なので1ヵ月の売上は2.2億円です。「ユーザーあたりの売上(ARPU)=売上÷ユーザー数」に当てはめると、

2.2億円÷149万人=147円

毎月、1ユーザーあたり147円の売上が149万人から入ってくることになります。

食べログの有料サービスは300円/月なので計算が合わないように感じますが、食べログアプリのプラットフォームを運営しているアップルやグーグルへの支払いや、他社の提携サービスなどへの提供分があるためだと思われます。

食べログの個人課金の目玉となる機能がランキング表示です。無料だと総合ランキングの上位までしか見られないのに対して、有料だと「口コミ数」や「昼」「夜」などより細かなランキングを見ることができます。

しかし、ランキングはユーザービリティからすると諸刃の剣です。ランキングが注目されるほど、上位のお店にお客さんが集まり待ち時間が増えて、満足度が低まる可能性があるためです。食べログの個人課金ビジネスの難点のひとつですし、上記のスライドを見ても個人課金者数は頭打ちとなっています。

ところが食べログにはユーザービリティと相反しないサービスがあります。飲食店から課金する予約サービスです。

予約サービスは売上が高まってもユーザービリティや満足度を低下させるどころか、むしろ高めてくれます。売上を見ても前年比123%の高い伸びを見せています。

テクノロジーで広告ARPUを高めるFacebook

ここまで、ターゲティングによる規模の限界を、エムスリーは世界展開や単価向上によって、食べログは新たなサービスの拡大でカバーしていることが読みとれたかと思います。

ARPUを増やすために、ターゲティング以外に考えられるのはテクノロジーの活用です。

その典型がFacebookです。Facebookでは閲覧者の性別や年齢、関心分野、年収などを即座に判断し、的確な広告を配信することでARPUを高めています。

まずユーザー数を確認すると14億人です。この数だけでもすごいのですが、さらにすごいのは、これだけの規模がありながら前年比(YoY)14%と高い伸びを示していることです。

Facebook Facebook Q4 2017 Resultsより抜粋

さらにさらに驚くのはARPUです。四半期あたり6ドルですから、月2ドル。円になおすと200円ほどです。先ほど見た食べログの広告収入が月に1.5円だったので、130倍以上です。ケタがちがううえ、前年比(YoY)で27%増と高い成長率を示しています。

Facebookではユーザーの属性や関心分野に応じて最適な広告を掲載するアドテクノロジーを積極的に活用している成果が現れていることが読みとれます。

さて、これまで全8回にわたって、ECビジネス、フィンテクビジネス、SaaS(Software as a Service)ビジネス、広告ビジネス・個人課金ビジネスの決算スライドの読みかたを解説してきました。基本的にはどんなビジネスモデルでも決算スライドの見方は同じですが、業界ごとに注目するべきKPI(Key Performance Indicatorの略。主要業績評価指標のこと)が変わることがおわかりいただけたと思います。

<今回のまとめ>
●広告型モデルと個人課金型モデルの方程式は、「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」
●一般的にユーザー数とARPUはトレードオフの関係にあり、ユーザー数を増やせば増やすほど、ARPUが増えにくくなる
●決算スライドでは、ユーザー数とARPUをどんな方法で増やしているのかをチェックする
本記事は決算書類の読み方を解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。