人間の一番の原動力は「悔しさ」。起業家の意識を変えるのも、投資家の仕事 〜個人投資家・千葉功太郎さんインタビュー【中編】

  • お金を語るのはカッコいい・投資で未来を作る / 千葉 功太郎

スタートアップ界隈では知らない人のいないエンジェル投資家・千葉功太郎さん。コロプラなどの創業期に携わりながら、これまで50社ものITベンチャーに投資し、育ててきた。そんな千葉さんが2017年に立ち上げたのが、「ドローンファンド」。日本のドローン事業を育てるために、お金も出せば汗もかくという、千葉流・投資術を聞いた。
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お見合いおばちゃん、汗をかく

日本のメーカーは、「いいものづくりをしているけど、ビジネスがうまくない」パターンがとても多い。尖った要素技術を持つ素晴らしい会社が山のようにあるけど、資本力が弱い。「いい会社だけど、グローバルでは勝負できないよね」とよく言われていて、本当にもったいないと感じます。

僕が立ち上げたドローンファンドでは、この課題を解決するために、いろんな「仕掛け」をしています。1つは、IT業界の経営手法を、ドローン事業に適用すること。

増資や銀行借り入れなどで大きな資金調達をして、エンジニアの採用やプロダクト開発をしっかり行う。赤字になっても、企業の成長を見据えて投資を続ける。そうやってIPOも意識しながら、グローバルで活躍する資本力をつけていくーー。

僕はIT業界の黎明期にど真ん中で仕事をしてきて、こうした経営手法を熟知しています。ドローンはこれから、インターネットと同じく社会のインフラになっていくはずですから、この手法を活かさない手はありません。

また、大企業とスタートアップ、大学の研究室がつながり、知見を交換するための仕掛けも必要です。これは、SMBC日興証券とユーグレナ、リバネスの3社が作った「リアルテックファンド」を参考にしています。

リアルテックファンドは、研究開発型のベンチャー支援に特化したファンドです。1年ほど前から僕も関わるようになり、もう、感動の連続です。「産学連携」ってスローガンに終わることが多いんですけど、ここはそうじゃない。小さなベンチャーや研究室と大企業が、しっかり協業できている。なぜできるかというと、ファンドの人たちが間に入って、汗をかいているからです。

参加企業にいくら「がんばれ」と言っても、自分からはなかなか動きません。大事なのは、ファンドの運営者が、すごくマメな「お見合いおばちゃん」になることです。

A社とB社の持ち味を100%理解して、どこでどうマッチングすれば効果が最大になるかを考え、提案する。うまくいくよう、なんども足を運び、両者とコミュニケーションを重ねる。ドローンファンドでは、僕は自ら「お見合いおばちゃん」となって泥臭く活動しています。ファンドってただお金を出すだけじゃありません。こういう地道な活動が、成否を分けるのです。

すごい奴が「近くにいる」ことが大事

3年半ほど前に、「千葉道場」というコミュニティを作りました。僕が投資している、スタートアップの経営幹部を集めた学びの場です。ドローンファンドの立ち上げ後に、ドローン事業でも千葉道場の「分家」を作り、いまは2つのコミュニティを主催しています。

千葉道場ドローン部のメンバー

ここで行っていることは、スタートアップ同士の知見の共有と、仲間づくり。半年に1回行う合宿では、参加者全員がNDA(秘密保持契約)を結びます。「ここであった話を絶対に漏らさない」という約束のもと、現場の課題や経営者としての悩みをオープンに話し合います。

千葉道場には、あらゆるステージの会社が参加しています。「本家」でいうと、参加39社の時価総額の合計は1900億円超くらいで、1億円から300億円オーバーまでがそろう。アイデア段階のシード期から、IPOを狙える実績ある会社まで、多様なスタートアップが一堂に会します。

起業の先輩からすれば、後輩の悩みは「いつか来た道」。経験に基づくアドバイスによって、アーリーステージにいる企業の成長スピードが上がり、資金調達の額も大きくなります。

千葉道場「本家」の様子

「オープンに議論しよう」といっても、最初はよそよそしく、踏み込んだ話をできるまで時間がかかりました。しかし繰り返し呼びかけるうちに、徐々に心を開き、企業秘密まで明かして語り合うようになる。「本家」では、3年以上かかってようやく理想の姿に近づき、お見せできる実績も出てきました。

参加企業の資金調達は、2017年8月から2018年2月末までの半年間で、約120億円(エクイティは81.3億円、デットは38.6億円)。累計額では、438億円。これは、一般的なスタートアップに比べてかなり大きい。まだ1社も倒産していないのも、誇れることです。シリコンバレーですら、シード期から事業化に到るまでに残る率が60%くらいなのを考えると、みんなすごく頑張っています。

仲間づくりという観点からいうと、スタートアップの段階で、「健全な競争意識」を持てる環境にいることがすごく大事です。起業家が1人で頑張っても、限界があります。また、意識の高い起業家ほど孤独で、なんでも話せる相手がいない。そういう状況を打開するのも、投資家の仕事だと考えています。

シリコンバレーのすごいところって、その辺にザッカーバーグやラリー・ペイジが「いる」ことなんですよね。世界中の頭脳がリアルに集まって、お互いを意識しながら競争している。成功体験がものすごいスピードで共有され、いい意味でマネされていく。つまり、大事なのはリアルな場で集まること、そうやっていやが応にも相手を意識し、刺激し合うことなんです。

「悔しさ」がわく状況をあえて作る

健全な競争意識を持つために有効なのは、「悔しさ」だと思います。だから僕はあえて、千葉道場の中で最高のお見合い事例を作るようにしています。大手企業とスタートアップを組み合わせて、こんなに速くビジネスが実現したとか。全力で事例を作り上げて、大々的にアピールするんです。

すると、起業家たちの心に、火がつきます。「自分たちはまだまだ」「このままでは出遅れる」という気持ちになれば、しめたもの。

誰かが一歩抜きん出ると、みんなが追いつこうと頑張る。日本は横並び文化なので、特にこの方法が有効です。でも悔しさがわき上がる状況って、自分のビジネスだけに注力していると、意外とないんですよね。だからあえて作らないといけない。それも僕の役割です。

難しいのは、ここでいう「悔しさ」が、足の引っ張り合いになってはいけないということ。特にドローン事業は、成熟したIT産業と違って、これから立ち上がっていく新しい産業です。ここで参加者同士が学び合い、「敵ではなく仲間」と思わないと、つい足の引っ張り合いが起きてしまう。

例えば、「あの会社が空撮を始めて、うちの競合になった。なんとかしなければ」とか、そういう村社会っぽい意識は絶対にダメ。戦う相手は隣の会社ではなくて、世界なんです。ファンドの参加企業には「日本ドローン株式会社」として、みんなで世界に挑む気持ちで、切磋琢磨してほしいです。

ちなみに千葉道場は、幕末に坂本龍馬らを輩出した、北辰一刀流の道場から取った名前です。僕の個人名ではありませんので、間違えないでください(笑)。私心からではなく、日本の未来を良くするために、汗をかく。それが、千葉道場で僕がやっていることです。